2015年のmusipl.comでの12月アクセス数上位10レビューはこちら!

 
1位 河野圭佑
『人間なんて』
 なんだろうこのエネルギーは。比較的武骨なルックスのシンガーがピアノを弾いて人間讃歌をうたう。聴いててグッとくる。ハスキーな声は酒焼けなのではないだろうかと勝手な想像をするのは、彼ならきっと豪快に飲みそうだなあというこれまた勝手な先入観で、事実がどうなのかはまったくわからない。だが、たとえこのハスキーボイスが酒焼けだったとして、それで何の支障があろうか。腹の底から沸き上がるような声量と… (レビュアー:大島栄二)
 

 
2位 中島みゆき
『麦の唄』
 メガ・ヒット曲、知名度があっても、どこかひねくれ、尖り続けながら、確実に多くの人たちの背中を押すアーティストとは考えるになかなか居ないが、それでもやはり、中島みゆきの情念、バイタリティは日本の中で渦巻く集合的な言語化しきれない無意識の言語化できない葛藤や行き場のない想いをどこか代弁するようで、突き放し、考えさせる懐の深さがあるのかもしれない。こんな世知辛い瀬に、彼女の唄は… (レビュアー:松浦 達
 

 
3位 METAFIVE
『Don't Move』
 高橋幸宏、小山田圭吾(Cornelius)、砂原良徳、TOWA TEI、ゴンドウトモヒコ、LEO今井によるバンド【METAFIVE】2016年1月13日のアルバム「META」発売に先がけ、アルバム収録曲「Don't Move」のメンバー6人によるスタジオライブ映像が公開されました。このスタジオライブ映像は4Kカメラ10台を使っての一発撮り。オールスターキャストを観ているだけでも大興奮なのですが、一人一人の演奏熱と… (レビュアー:本田みちよ)
 

 
4位 SANABAGUN
『人間』
 TV放送のアニメ制作者の「ベッドシーンはNGなので、代わりに男女の食事シーンを意図的に入れてる」との話に、メジャーの難しさは規制の枠、それを感じさせない表現かと。深夜フリートークで「こんな雨の日は一日中部屋で彼とヤりまくりたい」と気さくに話す歌姫も、メジャーではカブトムシやテトラポットに置き替えて「こんな夜にお前に乗れないなんて!」的に暗号化する訳で。サナバガンの1stメジャーアルバムの… (レビュアー:北沢東京)
 

 
5位 中村ピアノ
『灯台』
 ラブソングだと思う。多分。ええ、ものすごいラブソングだと思う。ヘビーでヘビーでいたたまれない。この曲を聴きながら、彼女のライブに行っている自分を考えてみた。淡々と、リスナーにそれなりにフレンドリーなMCを披露し、次のライブにも是非来てくださいねと言って、この曲が流れてくる。生の彼女がこれを歌う。ヘビーだ。直視できない。ちゃんと聴いていれば、直視できなくなる。一般的に平和で過不足ない… (レビュアー:大島栄二)
 

 
6位 Masayoshi Fujita
『Tears of Unicorn』
 この映像/音像から伝わってくる要素群には興味をそそられるところが多い。ヴィブラフォンがエコーし、また、新たな音色が更に重ねられ、ズレてゆく間の震えた空気から発生する音色。そこにはもう終わった音があるが、音が途切れ、終わっているのではなく、“続くための音”が用意されているみたく―。まるで、小さな雨垂れが水面に幾つもの波紋を拡げ、その波紋同士が混ざり合い、融和し、ときに弾き合い… (レビュアー:松浦 達
 

 
7位 最終少女ひかさ
『商業音楽』
 本気のバンドマンにとって、「金と時間もらって俺達はここに立ってる」の言葉がすべてじゃないでしょうか。最近は音楽にお金を使わないことが普通になってきたというニュースを最近よく目にしますが、そういう中でもやはりお金を使ってライブに来てくれたりCDを買ってくれたりする人が少なからずいて、そういう人の前で趣味でやってるのはやはり不誠実だと思うのです。「趣味の音楽でも良いモノは良い」なんて… (レビュアー:大島栄二)
 

 
8位 KIRINJI
『進水式』
 淡いロマンティシズムと仮設定されたプレ・モダンな相対命題、要は在りし日の未来絵図の間隙をすり抜けるようなシティ・ポップが若い世代から続々出てきており、このmusipl.でも多数、取り上げられてきた。それは、いつかの大瀧詠一的な何かとの断層はあるが、それでも、シンプルなロックンロール、スタイリッシュなポップス、マッドで刺激的なエレクトロニック・ミュージックなどと相克するように… (レビュアー:松浦 達
 

 
9位 くるり
『ふたつの世界』
 くるり、そのもののアクションが目立った年ではなく、個々の活動も含め、音楽雑誌でも岸田繁氏が「地味な一年だった。」と称するように、しかし、個人事務所を立ち上げて以降のくるりの在り方はまるで、昨今のシンギュラリティを地で行くようで頼もしさを貫いていた。筆者も足を運んだ『NOW AND THEN vol.1』における、『さよならストレンジャー』、『図鑑』の再上映のようで、アシッドなまでに今の温度で… (レビュアー:松浦 達
 

 
10位 Hior Chronik
『SIMPLE IS BEAUTIFUL』
 ギリシャ出身のベルリン在住のHior Chronikの音楽はそれを思わせる。自身のFACEBOOK上でベルリンの写真をメインに、彼岸のような美しい静謐さとどこか靄がかかった雰囲気のものとともに、短い文章や単語をのせるのだが、そういった感覚の延長線上に、メランコリックで、靄がかかった彼の音楽の深奥に分け入ってゆくほどに、訴えようとしている核心がより明確に伝わってくる。今年リリースされた… (レビュアー:松浦 達
 

 
次点 PUFFY
『パフィピポ山』
 PUFFYは本当に変わらないな。この人たちはいったい何歳なんだろうか。調べればすぐに判るんだろうし、調べなくたって来年20周年というのを考えれば大体想像つく。で、新作がコレで、まさにPUFFYそのもの。作詞作曲を誰がやろうとすべてPUFFYになるというのがアーチストとして優れているということなのであって、だからこのままもう20年経ったところで、PUFFYはPUFFYそのものであり続けるのだろうと感じる…  (レビュアー:大島栄二)
 

 
編集長コメント

1位 河野圭佑『人間なんて』:レビュー公開直後からわわわわわとアクセスが集まって、堂々の第1位。この人の動画はライブの、少し古いものしか見当たらなくて、歌の実力はあるものの人気は少なくて、もうあまり活動していない人なのかなあと思ってたのですけど、そんなのはまったく間違いでしたね。Twitterでもfacebookでもリツイートやシェアが集まってて、そのひとつひとつがレビューで取り上げられていることを喜んでくれていて、こっちも嬉しかったです。最近はユニットでの活動もあるようで、それでライブ動画の新しいのが見当たらなかったのかなと思います。実力もあって熱心なファンもいるのにまだ無名なこういうアーチストのためのmusipl.comとして、もっともっと頑張っていきたいと思います。

2位 中島みゆき『麦の唄』:年末に公開したレビューがあっという間に第2位に。あと数日あったら1位に躍り出ていたとしても不思議ではありません。松浦さんがレビューでも触れていたように、ライブが行われている最中で、ファンの間でもホットな時期だったのでしょうし、そういえば年末にはこの曲が主題歌だったドラマ「マッサン」がNHKでほぼ1日アンコール放送もされていて、そういうのも反応の良さに関係していたのでしょうか。

3位 METAFIVE『Don't Move』:これ、ホントにオールスターユニットって感じだし、曲もカッコよすぎでした。本田さんの「私、これ好き!」というストレートなレビューも、うんそうだな、僕がレビューしたってそうなっちゃうよなと思わずにいられない感じで、気持ちが伝わってきました。メンバーも多忙な人たちばかりのようなので、このバンドがずっとメインで続けられるわけもないだろうなあと思います。もし生で観る機会があったら、迷わず見ておいた方がいいのではないでしょうか。

4位 SANABAGUN『人間』:ランクは少し下げたけど、マンスリーランキングに4ヶ月連続の登場。ホントに息が長いです。1年前に12ヶ月連続でランクインしていたケリーマフを思い出す感じです。本人だけじゃなくスタッフやファンの皆さんがずっと熱心に支えているって感じで、こういうバンドは長く続いていくだろうなあとホントに思います。

5位 中村ピアノ『灯台』:この歌好きなんですよ、淡々とした日常の笑顔の中に狂気が潜んでいる感じが。紅白なんかの晴れやかな場所で歌われることはなかなかないだろうとは思うのですが、でもよく考えると紅白の裏側も結構ドロドロして狂気が渦巻いているかもしれないと思うし、だったら中村ピアノさんが紅白に出ても違和感はないのかもしれません。是非とも頑張ってください。

9位 くるり『ふたつの世界』:大晦日に公開のレビューが9位にランクインして、さすがはくるりだなと思います。そしてくるりをずっと見続けている松浦さんのレビューも、読みごたえがあります。くるりと松浦さんの組合せが、くるりファンをまた惹き付けるのかもしれません。

 7位と8位には2014年のレビューがランクイン。こうして昔のレビューが掘り起こされていくというのも嬉しいものです。逆にいうと、最近レビューされている楽曲へのアクセスが負けてしまっているというのはどういうことなのだろうということかもしれません。アーチスト自身や、ファンたちが地味に応援する積み重ねが、こういうランキングに反映しているということを考えると、無名でも地味な応援を得ることができるアーチストは、musipl以外の場所でも結果をちょっとずつ残していけるのではないかと思ったりします。

 そんな感じです。2016年もmusipl.comをどうぞよろしくお願いいたします。

(大島栄二)