くるり、そのもののアクションが目立った年ではなく、個々の活動も含め、音楽雑誌でも岸田繁氏が「地味な一年だった。」と称するように、しかし、個人事務所を立ち上げて以降のくるりの在り方はまるで、昨今のシンギュラリティを地で行くようで頼もしさを貫いていた。筆者も足を運んだ『NOW AND THEN vol.1』における、『さよならストレンジャー』、『図鑑』の再上映のようで、アシッドなまでに今の温度でどこか解体してゆくブルーズの重さに心底、痺れながら、くるりは自由度を高め、同時に、多様性を是認するバンドとしての本懐を発揮していった。ミスチルからきのこ帝国、キュウソネコカミとも対バンできるバンドなどなかなか居ない。
まとめサイトなんかどうでもよく、彼らは「青い空の遠さと、その下で飲む麦茶の美味しさ」、「夜明けのガラス玉」、「電車と、菜の花の香り」、「小さな窓から漂うカレーの匂い」などを描き、さよなら、と、またどこかで会える、の狭間で梶井基次郎のように檸檬をあちこちに置いてきた。
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自身の事情で行けなかった『NOW AND THEN Vol.2』で、東京の知己から『Team Rock』収録の「迷路ゲーム」やりましたよ、というメッセージを戴き、胸が熱くなった。リアルタイムでアルバムに触れ、その曲もサイケなアレンジで聴いた身としてはそれだけの歳月が経ったというより、生き延びたがゆえに感触できる細部があるということなのだと思う。