比屋定篤子『ナチュラル・ウーマン』
Tame Impala『'Cause I'm A Man』
ハイとローの気分
『PENGUIN DESTRUCTION』
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女の子が軽いトーンでさらりと歌う。でもこれは本人たちによればゆるふわ終末ポップバンドなのだそうだ。終末というのはこの世の終わりのことなのだろうか。歌詞の中でも主人公は終末の様子を夢に見る。核戦争が起こり北海道の隅っこで1人で立っている姿。そのディストピア感の原因は誰もいないから退屈だということ。直後に夢から覚めて現実が襲ってくる。現実の日常が戻ってきて良かったのかというとそんなこともなさそうで、イヤなことを避けながら、また孤独で退屈でつまらない夢を見る。その境界線は実に曖昧で、曖昧な上に軽いトーンでさらりと歌うものだから、聴いていて切迫した何かというものをまったく感じない。だが、それこそ今の真実なのではないかという想いも感じられて蒼白な気分にさせられる。思えばたいした混乱も起きなかったし起きる雰囲気も感じられなかった20世紀の世紀末より、何か起きるのではないかという危機感に満ちた今の方が終末観にはピッタリだと思うのだが、じゃあ若者のリアルとは、現実の中にあまりにリアルに感じられるものが無くて退屈ということ、その退屈から逃れるためには何でもアリ的な、それこそが終末ということの意味なのではないかと思わされる。夢も現実もすべて包んで無味無臭にしてしまうこの軽やかな歌は、一筋縄ではいかない強さを持っているように思えて仕方ないのだ。
(2015.8.4)
(レビュアー:大島栄二)
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