Lillies and Remains 『I Survive』 Next Plus SongATLANTIS AIRPORT 『Platform Lonesome Boy (Waltz before night)』
徳永憲
『悲しみの君臨』
 90年代後半に密やかにデビューしてから、彼の繊細な声と皮肉めいた歌詞、フォーキーな叙情性の中にドープな闇が見えるスタンスは変わらないといえるが、そこに安易に、レジェンド化したシド・バレットなどのSSWの名を寄せるには、その後のキャリアが着実に差異を示している。アレンジメントや曲の幅を拡げ、常に「移動中」のアーティストだとも思う。イラストレーターとしても非常に有名だが、セイルズというバンド活動を精力的に行なう中村佑介の彼への偏愛振りの背景の一部には、感覚が移動し続ける過程で、集中して細片に視線を落とす、その蠱惑的な朧ろげな“生成”をめぐるニュアンスがあるのではないか、という気さえする。爪弾かれるギターと、言語をどう接着すれば、フェティシズムという大文字を回避できるのか、そういった企みを胸に秘めた弧然たるSSWとして、再評価のみならず、ますます後進への影響は大きいのではないか、という存在だと思う。このMVでは、ケミカル・ブラザーズの「Star Guitar」のMVのように、ただ、今の日本の風観を保ちながら、線路と、通過する景色に添う彼と小島麻由美の声がどこにでもある、どこかにある、悲しみをみごとに微分解析している。
(レビュアー:松浦 達(まつうら さとる))
 


   
         
 


 
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