まったく知らないリズムをやっていて衝撃を受けた(加藤)
m:坂井くんのやっている音楽を最初に聴いて、「ヤバい」と感じたということですが、どの辺がヤバかったですか?
加藤:自分はドラムなので、まずリズムのセンスに嫉妬するんですよ。まずそこからですね。
m:読者には楽器を未経験者も多いのですが、そういう人にとって「リズムのセンス」というのは、言葉にするのは簡単だけれど、理解するのはかなり難しい領域だと思うんです。その辺をもっと具体的に教えていただけると。
加藤:普通にドラムを何年かやってきたという人が、坂井くんのリズムを聴くと、「あ、自分はそれは思いつかない、想像もできない」というような感覚ですかね。
m:まったく自分が知らないリズムをやっていると。
加藤:そういう感覚でした。
m:ドラマーがベースを見てドラマーとしてスゴいなと?
坂井:リズムマシンを使ってたんですよ。ベース1本の曲もありつつ、フレーズを組み立てて、曲によっては。アグレッシブな曲についてはリズムマシンも使いつつ。
m:ベース弾き語りミュージシャンを5人くらい知ってて、そのうち2人くらいはウチのレーベルからCD出してます。そういう人たちのライブに行くと、お客さんはほとんどついてこられていない。売れてない頃はお友達が来るけれどもベースの弾き語りなんてまったく理解出来ないと。そういう中でボボボボボボンとやっている。そういう人たちはリズムマシンは使ってなかったですね。リズムマシンを使うことで違っていたのか、それともベース弾き語りの時は結構寒いライブだったとか、どうなんでしょうか?
坂井:寒いライブにはなってなかったですね。
加藤:まったくなってなかったです。
坂井:ベース1本でやる場合も、結局ボーカルをのっけて、歌詞もメロディものっけて曲ありきで、そのギリギリ成り立つラインを出来てたと思うんですよ。だから多分下はベースしか鳴ってなくても上は歌詞で、やれてたと。
m:確かにギター弾き語りでストリートやってる人も聴いてると2つに分かれてて、単にジャカジャカと弾いていて、歌の添え物にしかなってないギターと、ギターはギターで独立している人といて。そういう違いがベース弾き語りにもあるということでしょうか。
坂井:そうでしょうね。
m:アルバムを聴いていて、明らかに歌詞が先行しているというか、インパクトの部分で。それは日本人が日本語を耳にしてわかりやすい部分ではあると思うんだけれども、音もオカシイというか、悪いという意味ではなくて。なんでベースとドラムだけで成立しているんだろうということのおかしさというか、興味深いというか。そこの音楽の部分は僕も知りたかったんだけれど、はからずも喋ってもらったので嬉しいです。
坂井:良かったです。
ドラムを担当しつつも上モノも要求されてる
m:今回のアルバムの聴きどころは?
坂井:セールスポイントとなると自分の歌詞ですかねw? いやまあ、結構今回のは音質がどうなのかはぶっちゃけよくわからなくて。一度録音したらパソコンの中に入れてピッピッといろいろ出来るじゃないですか。前回のはそうやって作ったんですけれど、今回のはそれとは違って、加藤くんと2人で、セーノでものすごい緊張感の中で作ったんで、それで行きたくて。それを感じ取ってもらえればなあという気持ちです。
m:一発録り?
坂井:ボーカルは後で載せました。楽器は一発録りです。「今日は本気録り」と決めて録音して、また別の日には別のマイクセッティングで録音したりして。だから一発録りではあるけれど、試行錯誤はすごく繰り返しました。ミックスでも死ぬほど聴いて、もう何が何やらわからなくなりました。ボーカルも真ん中が良いのか、別の場所がいいのか。昨日はこれでいいと思ったのに今日はまた違うように感じたりと。
m:こだわるところは死ぬほどこだわってる。
坂井:前はベースをギターのように弾いてたんですけれど、最近はそういう弾き方はしたくなくて。そうなるとドラムがドラムの仕事だけをやっていると、曲として成り立ってないような気がしたから、ドラムを担当しつつ、ちょっと上モノも担当しているような気持ちでやって欲しくて。
m:ドラマーにとっては無茶な要求じゃないですか?
加藤:いえ、無茶とかじゃなく、もうひたすら、信じて繰り返し練習するだけですね。そこに持って行けるように努力すると。絶対に出来るはずだと信じて。
m:自分が出来る範囲のことしかやらないと、発想に無いようなリズムを叩くなんて出来ませんし。
加藤:そうですそうです。あまりにレベルを超えた要求で、脳味噌が半分になったりしないかなとか思うことはよくありますけど。
m:加藤くんの、CDに興味を持ってる人に向けたお薦めポイントは?
加藤:僕たち結構な本数のライブをやっていて、ライブだけで味わえる空気感というか、そういうのを詰めてあるというか。そういうのを意識してますし、CDを聴いて感じてもらえたら嬉しいです。
m:今回のCDを出して、バンドとしては今後どのように展開していくつもりですか?
坂井:どうなんだろう。あんまり考えてないということじゃなくて、ワンマンがあって、それは12月なんですけれど、それまでに出来るだけ売って。ワンマン終わったらツアー回ろうと思ってます。ワンマンの後では半年後くらいになにかイベントをうちたいと思ってます。
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大阪にツアーでやってきた機会にインタビューを試みた。彼らのラフでユニークなMCと演奏中の緊迫感は、このインタビューでもそのまま現れていた。音楽を作る人にはクセというものが必ずあり、それが音楽の面白さと比例するといっても過言ではない。普通の人には普通の音楽しか作れないものだ。その点ボーカルですべての楽曲を手掛ける坂井のユニークさは他の多くのミュージシャンと較べてみても突出していて、それは以前からわかっていたものの、ドラムを叩く比較的寡黙な加藤も、実際に話してみると相当にユニークで、ああ、この2人だからやっていけるのだろうな、他の人がメンバーとして加入するのはかなり困難だろうなと感じた。しかしリズム隊だけでバンドとしての音楽が成立するのかというとそれも難しく、だからこういう構成のバンドはほとんどいないのだが、彼らの場合見事に成立していて、それだけでも一聴の価値がある。それが成立し、音楽作品としての高い価値を生み出しているのも、結局は人間としてのユニークさなのだろうと再認識した。 |
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(2014年12月18日)
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インタビュアー:大島栄二
インディーズレーベル、キラキラレコードのプロデューサー。ビクターレコードインビテーションレーベルに勤務の後1992年に独立。以来音楽の裾野を広げるべく活動中。ひとつのジャンルに偏らない音楽観で様々なアーチストを世に送り出している。
2013年にmusipl.comを立ち上げる。 |
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