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スピッツ
『優しいあの子』

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 2019年になり、日本は元号も変わり、気象状況や世界情勢も慌ただしく日々刻々変わりゆく。かつてまでの常識は時代遅れになり、絶対的な正論の束が異端者を探し出す不気味さを帯びた空気は極まりながら、個々としての自らは犠牲者に加害者にならないよう、でも、第三者ではなく、主体としての審美眼はある種傲岸に、人としてのマナー、ルールを建前に窮屈な、入り口をよりタイトにしているかのようで、新しい時代には相応の軋みがあるとしても、新しいことは本当に新しいのだろうか、とさえ思う。クールジャパンの反位に。

 もはやトートロジーになってしまうし、昔は良かった、の多くはバイアスがかかっているし、その昔に拾うべき敬意も勿論ある。

 今はこれだけ身軽に生きていける世で、と言っても、身軽であるためには増やさないといけない準備や判断は多い。衆人環視の網がこうして成り立ちながら、社会システムは疲弊し、どこかくぐもった、投げやりで暴力的なニュースや事件が行き交い、シリアスで居続けるのにも理性が凝る。ゆえの野生たる方向へ放たれる人たちの列は最前列も分からない。

   エサに耐えられずに 逃げ出してきたので
   滅びた説濃厚の 美しい野生種に戻る
   がんばる こんなもんじゃないよな
   生まれ変わる前のステージで
       (「野生のポルカ」)

 こういった曲を歌っていた彼らは今や、日本の朝ドラの主題歌を担い、老若男女を巻き込み、ベテランとしての凄みと飄然とした佇まいを保ちながら、新しいアルバムと大規模なツアーに備えている。品行方正に生きられるわけない中で、スピッツはそもそも邪さを許し、背徳を是としてきたバンドで、しかし、バンドの規模が大きくなるほどに、「大きな言葉」を届けることも増えざるを得なかった。歌詞は深読みされて、今は多様な解釈がネットに溢れ、実像は神格化されるようで、フェイク・ニュースも作り上げられて、情報量だけが肥満化する。2019年の日本を代表するだろう曲のひとつ「優しいあの子」。デコラティブでもドラマティックでもない淡々とした、「仲良し」や「花の写真」に似た、フォーキーで、アイリッシュ調で軽快なスピッツのほんの叙情的な一曲。でも、柔らかな雰囲気と口ずさめる箇所もあったりで、ふんわりと聴ける。
(2019.2.21) (レビュアー:松浦 達(まつうら さとる))
 


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