Spice Girls『Who Do You Think You Are』
Flying Lotus『More (feat. Anderson .Paak)』
およそ3
『およそ3から大事なお知らせ』
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1ヶ月前におよそ3の
『ヘッドホン・ガール』という曲についてレビュー
したところ、ファンの方と思われる方から「このレビュー面白い!」という感想をいただいて、その上で「新しいMVも公開されたのでそちらもレビューしてください」というツイートをいただいた。普通はそういう申し出は却下あるいは無視なんだけれど、レビューして欲しいじゃなくて、君が自分でセルフレビューを投稿しろよなんだけど、まあおよそ3好きだし、一応リンク貼ってあったMV見てみるかと思って見たら、こりゃ面白い、というか、面白いというよりもおよそ3の心髄に触れるような何かを感じたので、レビュー依頼だったけれど、前回レビューからほとんど間もないのだけれど、一言なにか言っておきたいと思って筆をとりました。実際にはキーボードですけど。
この『およそ3から大事なお知らせ』というMVは、曲の冒頭からメタルバンドかハードコアかという曲調で「解散だ!脱退だ!もう限界だ!」というシャウトが繰り返される。そこからいかにバンド活動が大変なのかという描写が続けられる。解散したらどんなに楽な生活が待っているのかが描かれる。続けることの虚しさが歌われる。辞めるべき理由が次々と語られる。
でもアレだね。彼らがバンドを辞める気なんてさらさら無いということは伝わってくる。こんなに辞めるべき理由を繰り返しながらも、辞める気なんてさらさら無い。親族からしたら困ったものだという感想しかないだろうが、彼らに辞める気なんてないんだから仕方ない。ファンにとっては朗報だ。
辞めるべき理由というのは、理由であり理屈であり、だから言語に変換することができる。しかしやり続けたいというのは感情であって、だからその内から沸き起こる暑いエモーションは言語に変換することがとても困難だ。でも言葉にならなくてもエモーションはにじみ出るものであり、それは本人にも周囲にもわかる。
人が何かをやろうとする時、周囲がそれを阻止しようとすることがよくある。その阻止の方法は、理屈だ。よく考えろ、一時の気の迷いだ、浅はかな行動で将来を棒に振ってどうする。その説得に押されて自分自身の中にあるエモーションを押し殺すのも理屈だ。そうだよね、楽しいとかバカだよね、まともに考えたらそんなリスクを冒すなんて愚かだよね、安全策安全策で、石橋は叩いても渡らない方が良いよね。そうやって理屈がエモーションを押しつぶした例をたくさん知っている。それで至ったノーリスクな人生が幸せならそれはそれでいいけれど、エモーションを押し殺すことを知った人生に再びエモーションが支配的に沸き起こることはもう無い。それで良い程度のエモーションなら辞めた方がいいけれど、それで将来後悔するくらいなら、今のエモーションを大切にした方が良いんじゃないかなあと、他人事だから責任なんて取る気ナッシングですけど、そう思う。
およそ3のことを前回のレビューで「楽曲もちょっとばかりふざけたテイストのものが多くて」と書いた。だが、僕が彼らのことを最初に評価したのは
『What A Wonderful Life』
だった。その溢れるようなプラスのメッセージが半端なかった。「いつか手にしたものすべて無くなって、君は何を糧に生きるの」という歌詞が秀逸だった。「争いとか憎しみとか痛みと引き換えに、生きる証を探してきたんだろう」という歌詞がグッときた。そんな歌を歌ってきたバンドが、借金や重い機材や店長昇格くらいで辞めるわけはないだろう。そんなことは最初から解っている。この『楽しく楽して売れたい』という曲は、テイストこそ違えど、
『What A Wonderful Life』
と表裏一体のメッセージソングなのだろう。
表裏一体というと、この曲の中で歌われている「バンドを辞める」という選択と「楽しく楽して売れたい」という希望とは、実は同じ土俵上にある表裏一体の感情である。売れたいという希望があるから、それが叶わない時にバンドを辞めるという選択肢が浮上してくるのである。だが、およそ3は最初からバンドを辞めるなんて選択は考えてもいない。だから、バンドを辞めるということの反語として、「楽しく楽して売れたい」という言葉を使っているだけなのだろう。そう考えると、曲の最後の「いつかそうならないように」という歌詞は、「売れないと解散になるから」そうはなりたくないという意味ではないのだと思う。むしろ連続した歌詞のとおりに、「楽しく楽して売れたいよ(と思ってしまうような自分たちに)いつかそうならないように」という考えるべきなのではないだろうか。
(2019.6.17)
(レビュアー:大島栄二)
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