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GRAPEVINE
『すべてのありふれた光』

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 ありふれていても、余りに社会的に個体内の許容量を超えることがある。だからこその、単節と沈黙は金なのかもしれない。余剰は要らない。本当に、奇遇にもこのアルバムのプロデューサーたるホッピー神山が関わった『退屈の花』と同じレコード店で買った。98年の5月の新星堂、店舗のサイズなどは変わっていたが、基本、同じ場所で。彼らにとってのメジャーとしてのフル・アルバムで、すでにラジオやライヴで披露していた曲群がおさまっている期待感とともに、ステレオで聴き、カセット・テープでも擦り切れるほどに聴いた。10曲目のメロウで切ない「愁眠」のあとのジャンクな「熱の花」の展開まで、アルバムというものの意味を考え、既に老成とイロニーと、また、ロックンロールやソウル・ミュージックへの対峙への腰の据え方に深さへも感心した。そこからブレずに飄然と変わりゆきながら、しかし一歩一歩、キャリアを重ねていった。ワンマンで観る機会より、ふとしたフェスやイベントに彼らが出ていると観て、結局、持っていかれてしまう。多様な曲の変幻自在な空間のうねりに。

   忘れられるものなど何も無い
   何処かで君が 何処かで君が
   見つめてるように 見下している様に
   いつまでも鳴響いていた
           (「愁眠」)

 見つめてるように、見下しているように、から、音を重ねての20年。そのころの、君は変わり、『ALL THE LIGHT』が孕むカラフルで感極まる要素とは一体、なんなのだろう。彼らの作品の中でも異端といえなくなく、つまり、とても彼らだからメタだろうがベタだろうが、「わかる」みたいなポイントもあれども、余計な理屈や根拠なく聴ける本当に良いアルバムだと思う。

               ***

 『ALL THE LIGHT』。10曲、42分ほど、あっという間に聴けるが、何度も聴き直したくなるほどに1曲の魅せる光彩が違う。田中和将作詞作曲のアカペラの、コーラスを重ねた冒頭の「開花」から、先行で公開されていたホーンの印象的な明朗な「Alright」へのなだれ込む感じがとても心地よく、GRAPEVINEの新作を聴いているというより、ストーンズの『女たち』を聴いているような、ビートルズの『リボルバー』を聴いているようなタイム・リープをしながら、ふと、昨今のMGMTなようなアート・センスの音像化に反応もして、優しくたおやかな曲に涙が緩む。数多くのインタビューや取材で田中はこの作品や全曲について語っているので参考にしてほしいが、GRAPEVINEが「光をうたう」という何かはどこか閉ざされて、反面、闇深い瀬の反動でもあるのだと思う。

 対象的な主語たる、きみに見下されていたように思えた季節から、20年を越え、サイケデリックも幻惑もオルタナティヴも抜けて、まっすぐに社会や実存に於ける居心地の悪さを煌めかせる。中でも重要曲なひとつ「Era」ではやさしい歌詞が綴られる。

   散らばった光に雨が去ってくように
   時の流れはずっと穏やかで壮大で
   繋がってくメロディ
   苦い過去ひっくるめて
   何もかも連れて行こう
   もう一歩
   いつもの感じで
         (「Era」)

 そして、集約されるような「すべてのありふれた光」のMVでわかるように、偏在する権力装置を逸れて、アウトサイドに生きる覚悟と相克して誰かの味方であることの柔らかさを漸進せしめる、いつだって。音楽が終わって、光が褪せて、悲しみの出来事ばかりでも、まだ一歩、前に。

 どこか、どこまでもの悪い噂やニュースばかりの今に大事にしたい詩集のように備えていたくなる。光のまぶしさにかどわかされないように。その影からの口笛の残響に。

   ありふれた未来がまた
   忘れるだけの 忘れるための 
   それは違う 何も要らない 
   何にもなくても 意味がなくても 
   特別な君の声が聞こえるのさ 届いたのさ
   君の味方なら ここで待ってるよ
         (「すべてのありふれた光」)

 そうあるように、すぐに余計な荷物も捨てて、柵を抜けて優しく誰かの味方であるための音楽が誰もの光でなくていいように。ありふれていられるように。

(2019.3.2) (レビュアー:松浦 達(まつうら さとる))
 


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