静かに紡ぐように歌われる歌。アンビエントと言っていいのだろうか。アーチストHPのバイオグラフィーにはアンビエントの文字はないが、インタビューの中で「エレクトロニカ〜アンビエントを聴きまくってた時期に出会ったアーティストに影響され、好きな音や表現したい空間の趣味嗜好を固めていった」とあるから、アンビエントと言っても間違いではないのかもしれない。この曲は今年1月にリリースされた5曲入りのアルバムの最後を飾っている曲。YouTubeにはこの他に『Never let me go』という静止画オーディオが上げられていて、これが今回レビューの『Little boy and girl』よりもさらにアンビエント色が強い。アンビエントはしっかりと確立されているジャンルであり、ファンも多い。歌モノしか聴いたことのない人には取っ付きにくいかもしれないが、アンビエントがしっくりとくる瞬間というものが人生にはあるし、だからこの人がアンビエントのアーチストであっても何の問題もないのだが、しかしちょっと気になるのだ。アンビエントの人だと断定してもいいのだろうかと。
5曲入りのアルバム『In her dream』の1曲目に収録されている『Sunshine』は、もっとわかりやすい、明るい歌が立っている楽曲なのだ。とはいってもアイドルグループが歌っているようなものとはまったく違うけれども、明らかに歌が中心に座っている、聴いていてアンビエントとは違う種類の心地良さを感じる曲なのだ。例えるならばPredawnのようなポップさ。そういうポップさを1曲目に持ってきているというのは、自分の音楽はこんな風ですよという自己紹介的な意図もあったのではないだろうか。深く深く音楽的な表現をすることが出来るアーチストがきちんとポップを作るというのは、粗製濫造気味に生み出される安価なポップとは違った価値を提示してくれるのではないかと、このアルバムを聴いて予感してみたくなるのだ。もちろんアンビエントはアンビエントで素敵なのだが、そこからさらに広がった深い音楽世界を期待させる点で、優れたアーチストだといえるだろう。