Lucky Kilimanjaro『Favorite Fantasy』 Next Plus Song民謡クルセイダーズ『会津磐梯山』

キリンジ
『エイリアンズ』

LINEで送る
 まだ、2017年も終わっていないままに、何かしらあまたの報道の偏向に対して、あたかもエイリアンズな気持ちになることが増えすぎておかしくなりそうで、少しばかり彼らについての自身が知っていることを書こうと思う。私事はいいにしても、世事はこうも急速に緊縮していかないといけないのだろうか、というのは(国境)線沿いのふとした感慨なのかもしれず、その線の上に。そこに押されるスタンプはもはやある種の記号論で。

 大阪の改装中のなんばグランド花月の前のジュンク堂書店の近く-今はもうない―その地下にはWAVEというCDショップがあった。そこで当時、彼らの『冬のオルカ』という三曲入りのCDを買った。中村一義『永遠なるもの』などとの並び、試聴機でどこかうっすらと、FMラジオでも真心ブラザーズがキリンジの曲をかけていた。シティ・ポップや洗練されたハンドメイドにしてウェルメイドなセンスは90年代後半からナイアガラ界隈のみならず、音楽好事家たちの中で評価が高く、日本語詩の捻じれ方と、ヴァン・ダイク・パークス、ブライアン・ウィルソンから巡りめぐる作り込まれた内的な音響の混み入り方と、職人技の意匠と堀込兄弟の危ういバランスがオーバープロデュースで過圧気味な音楽の解体の設計図を書いていたような気がする。

   君と休日ダイヤで流す車窓から世界を眺めてみれば
   「僕らはもうヨソ者じゃない!」
   そんなふうに思ったりするよ
        (『休日ダイヤ』)

 休日ダイヤでこそ、真っ当に居られる感覚を持ち続けたキリンジがその後も外から柔らかく街に、アンガジュマンしながら、同時に悲しくも日々のエレジーを歌い、ときにダイレクトなメッセージやラブソングを届けながら、堀込兄弟としてのものが終わっても、名称は残り、今も歌い続けられる曲は数知れずある。不世出の、というには平易だが、キリンジに関しては都度の書き替えるための暗号式が巧妙で、その中で、先々にも継がれるだろうこの『エイリアンズ』の滑らかさは馴染むことを忌避する彼岸の良さが極まっている秀逸にして奇妙なバラッドだと思う。

               ***

 かろうじて、クリスマスの祭歌に迷うときのふとした手引書、そんな風な、そんな風でもなく、この曲がリバイバルの荒波を越えてもはやエヴァーグリーンな(オルタナティヴな)ポップ・ソングとして、少なからぬ人たちに届けられる瀬は正直、よく分からない距離感をおぼえる。キリンジ、のん、そして多くの著名アーティストからのカバーのツリー状からより可視化される得体のしれない異化作用―。

 異端たるものの声が不意に響いた瞬間に、それらを全く知らずに居た人たちは何を思ったのだろうか。あらかじめ異端たる者たちが勇猛果敢な真ん中に踏み入ったのだろうか。歴史が明らかにしてくれるにしても、悲しい事象、事件が多すぎると、つい噛み締めてしまいたくなるAOR調でプラスティック・ソウルな色気がむしろ深く響くこの間合い。スティション・トゥ・スティションなんて野暮な惹句は抜きに、あらゆるディストピアで包囲されたそれぞれの街でハミングする歌の一つとして、このいつ聴いても心の底まで感情移入「できない」風情こそが郊外の、何かの知的な艶やかさなのだろうと思う。遥か郊外の、忘却の先の砂漠に咲く歌謡曲のようで、高度に仮想化された哀愁のようで、やはりタイミングによって泣けてしまう。もはや新世界なんてないだけに。

 勝手に決められた流行語のどれにも、暗がりを帯びたニュースにもはやピンと来なくても、気付いた誰かが外れ者でいいとされる世の中で生きることが大声で排除されることを前提としないのだと思えるならば、自由な場所は幾らでもある気がする。

   踊ろうよ さぁ ダーリン ラストダンスを
   暗いニュースが日の出とともに町に降る前に
             (『エイリアンズ』)

 いつかは、順番で、そこから外されるかもしれないとして、ほんのわずか不穏な気配のなかでメロウな舞踏で明ける夜明けも満更ではないと信じる対象をさだめての、刺しちがえるほどの内向きにこもる矜持がちらほらとこの曲を立像化し、より歌い継がれている輪郭を際立たせてゆく想いが偶さかに普遍を仮託している。

 再評価やキリンジの形態が変われども、ヨソ者たちのための中心を回流するアンセムとして、ラストダンスをこの曲は促す。
(2017.11.25) (レビュアー:松浦 達(まつうら さとる))
 


  ARTIST INFOMATION →
             
 


 
 このレビューは、公開されている音源や映像を当サイトが独自に視聴し作成しているものです。アーチストの確認を受けているものではありませんので、予めご了承ください。万一アーチスト本人がご覧になり、表現などについて問題があると思われる場合は、当サイトインフォメーション宛てにメールをいただければ、修正及び削除など対応いたします。