高橋優『素晴らしき日常』
CuBerry『光の街』
日食なつこ
『レーテンシー』
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子供向けの絵本の名作に「こんとあき」というのがあって、ぬいぐるみのキツネ「こん」と女の子「あき」が電車に乗っておばあちゃんの家に行くというある種のロードムービー的内容。僕はこれが大好きで、なぜ好きかというと、ぬいぐるみのキツネはことあるごとに「だいじょうぶだいじょうぶ」と口にするからだ。これは大人の男女関係の比喩なのかと思ってる。せいぜいぬいぐるみ程度のものでしかない男は理由もなくただ「大丈夫」を繰り返す。女はその無根拠の大丈夫を信じて、生きる。もちろん例外はあるけれども、女性が主導権を握っている場合には、無根拠の大丈夫など口にしないだろう。ちゃんと理由を探して、本当に大丈夫な時にだけ大丈夫と言うだろう。だが、残念なことに残念でしかない男は理由を探すのが面倒なのか、それとも理由を探す能力を持ち合わせていないからなのか、根拠もなく大丈夫を繰り返す。そしてそれに女は振り回されてしまう。この日食なつこの新曲では、冒頭の歌詞から「漠然とした大丈夫にもう騙される僕じゃない」と歌う。これは男にとっては辛辣な挑戦状だ。無能を指摘されているようなものだ。返す言葉もありません。僕らは所詮ぬいぐるみのキツネ程度の存在でしかなく、エラそうなことを言うか、さもなくば根拠もなく大丈夫ととりあえず安堵するしか方法がなくて、騙そうとしているわけではないのだけれど、結果的に騙されたと言われたのなら、もう反論の余地などはまったくありゃしない。
男全体に三行半を突きつけたような日食なつこが、このMVではどこかの広場でピアノを弾き語る。どこだろう、良い場所を探したな。そのうちに画面は思いっきり退く。ん? 他の人がいるぞ。野球やってる。ここは草野球のグラウンドの、その外野の端の端だ。これだけカメラが広角になって、野球してる人以外がどこにもいないのがわかる。普通MV撮影する時には演者の周囲にはスタッフが取り囲んでいるものだけれども、この広角の映像の時にはグラウンドの隅に日食なつこだけがピアノと残されて、傍目からは「この人ここでなにやってるんだろう?」と思われてしまう状況になっている。それでもそんなことは一切気にするそぶりも見せずに弾きまくる、歌いまくる。プロだなあ。これはもう普通の男などあっという間に三行半だなあ、と感心する。あと、遠くから望遠で撮影している映像を見れば、かなりの望遠レンズが使われているのがよくわかる。家庭用のハンディカムなどでは絶対に取れない映像で、あまりに遠くの被写体を拡大しているためか、映像が揺れている。面白いなあ。一体どこまで離れて映像を撮っているんだろうか。しかもいくつもの方向から。さらりと見てると気付かないそういう映像へのこだわりと機材の準備などを考えながら見るのも面白い。また、1分42秒あたりで、すごく離れた場所からの望遠ショットなのに日食なつこがカメラ目線で決めポーズをしてるのも、粋だなあと思った。カッコイイ。
(2017.10.9)
(レビュアー:大島栄二)
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