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たま
『満月小唄』

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 夜遊びをするようになるのは大人への入口。神社でお祭りがあるからと親に手を引かれて非日常の近所に出向く。迷子になっちゃいけないよと固く手を握り。でもその非日常性はルーティンの、親とだけの生活とは違う世界が在ることをしるきっかけとなる。正しいことで囲まれる幼少期を過ぎ、やがて友人と夜に出かけていく世界。それは怪しくもあり、だからこそ魅惑的でもあり。満月をつかまえに行こうと誘われるこの歌は、そんな怪しくも魅惑的な何かへの誘いのようだ。その何かとは、やはり自分自身を発見していくことそのものなのではないだろうか。たまというバンドのユニークさは奇異な声質のボーカルだったり、ランニングシャツのビジュアルだったり、とにかくインパクトに溢れる特徴に目を引かれがちだが、こういう静かな曲にこそ実は最大の魅力があったのではないかと思う。満月が象徴する大人の世界の怪しさを、小さな言葉を重ねることで表現する。怪しい世界のおどろおどろしい部分を霧がかかったような描写で浮き彫りにしながら、そこへ「行こうよ」と繰り返す。例えば佐野元春が正面をきって大人の勇気を見せて世界への誘いをかけていたのとは対照的に、怪しさというものの魅力を説いて内なる行動力を誘発しているこの曲に、たまという表現者たちの精神性を感じるし、成長というものの本質を見るような想いがする。僕らは、怪しいものへの誘いに応じることで大人へと成長するものだし、その怪しいものへと向かう子供の後ろ髪を引くことなく、手放していけるかどうかが、大人が本当の大人へと成長出来るかどうかの分かれ目なのではないだろうか。
(2016.12.17) (レビュアー:大島栄二)
 


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