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ゲントウキ
『誕生日』

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 SNS的なバーチャルでインスタントな繋がりではなく、リアルな手書きでの懐かしい友人からしたためられた手紙がポストに投函されているような、同窓会な決め事じゃなく街で偶然、再会する気分なといおうか、ふとこういった新作が届けられると嬉しくなる。01年の『南半球』というCDを手に取って、スピッツのトリビュート・アルバムでの「青い車」での絶妙なセンス、FMでもパワースピンされていた「鈍色の季節」はその後、07年のベスト・アルバム『幻燈名作劇場』に収録されている「Abeno-music Abeno-life」に倣いではないが、大阪の阿倍野のレコード・ショップで買った。レコード・ショップはもう今は無い。その阿倍野も今はハルカスを始め、大型ビルが立ち並び、ただ、横道に逸れると、小さな洋食屋や喫茶店が立ち並んでいて、風情は変わらない。この作品みたく。

 そのポップ・センスと比して、ゲントウキは当時、真っ当に評価されたとは言い難いものの、ジャケットのイラストは今やそのタッチを見れば誰でも彼と分かる中村佑介氏が手掛けていた。不世出のまま、バンド形式だった彼らは田中潤氏一人になり、ゲントウキの名前も作品もその後、聞かなくなった。そして不意に、今年、約10年振りの新作がリリースされ、特設HPには錚々たる面々がコメントを寄せ、田中氏の今作に込めた真摯なメッセージ、各曲へのセルフライナーノーツまで叮嚀過ぎるまでに記載されている。それでいて、構えて、小難しい訳ではなく、ポップに何気に捻くれながら、音符が弾けて、言葉が舞い躍り、不意に鋭く刺さる。万華鏡のように眩しくサンバ的な曲からメロウなバラッド、ホーンが心地良い疾走感溢れるポップ・ソング、ジャジーな曲まで多様な音楽性が煌びやかに詰められている。

 最後にボーナス・トラックとして旧来のファンへのプレゼントみたく03年のシングル「素敵な、あの人」のアコースティック・バージョンで添えられているのも細やかにこの10年の間を埋めているようで、微笑ましい。

 田中氏のサイトからのメッセージを引用するならば、“2016年、世界は目隠しをしながら走っています。数歩先が見えない時代でも新しい命は生まれ、それは何時も普遍的に未来を照らす光であり続けます。テクノロジーは社会を変革し、多くの分断も起こったけれど、長期的な目で見れば世界は良くなっていく。そんなテーマを10年ぶりに発表する作品に込めました。”という響きが心に染みる。この表題曲「誕生日」も東日本大震災後のカオティックな時期、まさに0歳の子供たちへ向けて書かれたというが、世代を問わず、バウンシーで眩い前向きな躍動感が伝わってきて、例えば、個人的にヘッドホンで聴きながら、全く以前とは変わってしまった大阪を緩やかに歩いていたとき、あの頃にタイムスリップするようで、彼方に通天閣が見えれば、時間軸をリープして静かに心が音楽に融け込んだ。

 音楽が持つ力とはそういう時間を縄抜けしてゆくところにやはりあるのかもしれないと思う。キリンジに「今日も誰かの誕生日」って曲があったが、常に誕生日は毎日にあって、そこから音楽は、誰かの日々のささやかな願い事と呼吸は、始まる。

   朝日に手を合わした お願い事10個もした
   欲張りがすぎるかな やっぱ4つにしぼった
                (「誕生日」)
(2016.12.2) (レビュアー:松浦 達(まつうら さとる))
 


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