the peggiesの北澤ゆうほの声は特徴があって、REBECCAのNOKKO、ジュディマリのYUKIなどに連なる、ある種女性ボーカルの王道的な系譜に属する。が、この王道ボーカリストの席はけっこう長いこと不在状態にあって、いくつものボーカリストがここに座ろうとしては失敗して小物のままシーンの片隅に佇んでいる。で、このthe peggies、昨年くらいからよく目にして耳にしてはいたものの、なんかブレイクする感じが見えなかった。なんだろうなそれは一体どうしてなんだろうなと思っていたら、この動画を見てなんか理由が判ったような気がする。ほぼ1年前の動画『グライダー』や『JAM』では、彼女たちはバンドにこだわっていたようだ。だがこの曲ではバンドにこだわっているようには感じない。北澤ゆうほが誰もいない学校を歩き回る。石渡や大貫も屋上手前で少し楽器を弾いているものの、その後は楽器を持たずに一緒に学校内を歩き回る。その自由で楽しい雰囲気。バンドは音楽を生み出す集団であって、だから楽器を持っている演奏をしているというのはある意味必須で、それこそが単なるアイドルシンガーとは違うんだという証のようなもので、だからバンドマンはそこにこだわる。というか、楽器を持たない演奏しないということに慣れないのかもしれない。だがMVはCDともライブともまた違った表現手段であり、そこで音の良さ以外のバンドの「良さ」を表現してファンを獲得しなければならないわけで、だとしたら、バンドであることにこだわることでバンドの良さを伝えられずにいる可能性も当然あると考えるべきだろう。the peggiesはこのMVの全編でバンドであるというスタイルから自由になり、本来持っているはじけるような魅力を見せつけることに成功しているといえよう。MVの演出でそういう表現にシフトできる背景にはもちろん本人たちのこだわりからの解放があるはずで、それは新譜に見られる音楽の作られ方や、今後のライブパフォーマンスにも現れていくのだろう。今後のブレイクが楽しみなバンドである。MVの最後にメンバー全員が楽器を持ち、嬉しそうに演奏をするシーンが出てくるのだが、その時のメンバーはまた一味違った嬉しそうな表情をしているし、ああ、やはりこの人たちはバンドであることが大好きなんだなあということが感じられる。このMVが脱バンド的でありながらもよりバンド的なんだなあと思い知らされる。