その隙間から『Memories Sink in the Blood-Orange』 Next Plus Song大江千里『REAL』

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『例えば』

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 力強い歌だ。つらい人にただ「大丈夫だよ」と声をかけるメッセージソングは多いが、これはつらい人に「そこから逃げるのか」と問いかけるメッセージソング。僕はその方が、厳しいけれども本当に優しい声援なのだろうと思う。メッセージを必要としているのはこのビデオに描かれている、おそらく営業のサラリーマンのような普通の暮らしの中にたくさんあって、車を運転する青年が曲を聴きながら徐々にポジティブになっていく様子も、曲とシンクロしてとても良い。これは画面に歌詞が表示されるリリックビデオなのだが、その必要がないくらいに耳からだけで言葉がスーッと心に響いてくる。だがこのリリックビデオが意味を持つ箇所もあって、それは後半に言葉では「いま」と歌われている歌詞が、漢字では「現実」と表記されているということが判る点。1番のサビ終わりで「今を現実と呼ぼう」と宣言して以降、この歌に於ける「今」は「現実」なのだ。配信される音楽をイヤホンを通じて歩きながら聴くというのが主流になってきた今、昔のように歌詞カードに穴が開くほど見つめて部屋の片隅で聴くシチュエーションは激減しているけれども、歌詞を理解することが重要な曲というものは今も変わらず存在していて、リリックビデオというのは昔の歌詞カードの代わりを果たしているのかもしれない。それにしても、この運転する青年はバンドのボーカルだと思われるのだが、HPにあるアーチスト写真とは(当然のように)まったく違っている。普段の彼を知っているファンからすれば、このビデオでの営業マンコスプレはけっこうウケたのではないだろうか。そういうことを想像しながら観るのもビデオの楽しみ方のひとつなのかもしれない。
(2015.8.21) (レビュアー:大島栄二)
 


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