近年はある程度、キャリアを重ねたアーティスト、バンドで往年の作品をライヴ・パフォーマンスするというスペシャル・セット的なものが増えている。その「往年の作品」は絶対支持数の多いマスターピースだけではなく、存外、コアでアシッドなものが俎上にあげられたりもして、ただ、動画などでは追いかけられない現時性で感じられる“それ”は意味深くもある。いまだに売れ続ける、ピンク・フロイドの『THE DARK SIDE OF THE MOON』がロジャー・ウォーターズのツアーで完全演奏されたのは00年代後半のこと。大きなフェスティバルでも演出含め、話題になった。
UKでは、重鎮となったマニック・ストリート・プリーチャーズが1994年の尖鋭的な『The Holy Bible』という或る意味でファンの中では毀誉褒貶わかれるだろう、サード・アルバムを主軸にしたセットで、今夏、日本のフェスにも来る。マニックスに関しては、ロック・バンドとして数多の逸話を孕むゆえに、端的には語れないが、「30曲入りの二枚組のデビューアルバムを発表し、世界中でナンバーワンになって解散する。」と表明して始まり、主たる作詞者であり、ギタリストであった2008年11月に死亡宣告されたリッチー・エドワーズの生きざま、そして、そのリッチーのナイーヴにして痛々しく鋭利な想いと詩的感性がもっとも刻まれたアルバムを当初からのメンバーたちがこの2015年に、と考えてゆくと、感慨は尽きない。ただ、懐古主義的な何かでも禊ぎ的な何かでもなく、ただ、エッジでパンクなライヴになるのではないか、と思うだけに、こういった機会にこそ、彼ら、彼らの音楽をあまり知らない人ほど、触れてほしい気がする。彼らから拡がった胞子は今も新たに世界中で大輪の花として芽吹いているだけに。