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中田裕二
『ひかりのまち』

 2011年の3月の時期には多くの声のみならず、歌と映像が行き交った。その中では偽善、売名行為だと揶揄されたものもあった。しかし、そういった瞬時の荒波も歳月とともに容赦なく攫われ、報道されるべき何かの優先順位はいびつさを増している。痛ましい事件はすぐに伝わるべきだとも思う。世界的に成功した人たちの声はすぐに届くべきだと思うが、そこでさて、と疑問符もつく。あの日から何が変わったのか、いや、終えていっているのか。椿屋四重奏のときから、中田裕二の蠱惑的にして艶を帯びた声の誘引力は気になっていた。この「ひかりのまち」は、東日本大震災直後にすぐさまにアクションを起こし、ラフな形でも、と彼が届けた歌に、宮城在住の映像ディレクターの及川謙一氏が有志とともに制作されたもの。彼の“伝わる声”にまっすぐなメッセージは美しく伸びやかに響き、画面には多くの人たち、風景が映りすぎてゆく。ここのすべての人たちが撮影の時点から笑顔で元気でやっているのか、景色は保たれているのか、は筆者にはわからなく、最後のクレジット・ロールでの出演リストの名前ひとつひとつに多彩な人生があることを想うと、やはり胸が痛む。だとしても、ここでの「ひかり」とはどこまでも遠いもの、過去のものではなく、ハレーションの後に“あの日のように”鮮明に今を各自の感性の中に映し込むのではないかという希いを仮託している自分もしぶとく、まだあるのは否定できない。
(2014.10.17) (レビュアー:松浦 達(まつうら さとる))
 


   
         
 


 
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