正山陽子 インタビュー

『子猫のように歌う人』

    〜私の音楽はジャズよりもむしろJ-POP〜  (取材:文=大島栄二)
   チルコロ京都で行なわれた正山陽子さんのライブ。気取った雰囲気が一切無く、近所の気さくなおねえさんの家に遊びに行ったような印象だった。

 このmusipl.comで正山陽子さんを紹介したのは共同レビュアーの松浦氏で、僕は彼女のことをそのレビューで初めて知った。『バイバイバイ』という曲の動画から伝わってきたのは、結構アダルトでムーディーなシンガーの姿。比較的低音が強く出て押しが強い。正山さん自身「昭和歌謡的な部分もある」と称するその歌声からはパンチの強い“圧力”を感じた。しかし実際に会ってみた正山さんはとてもキュートで、明るい笑顔が似合う女性だった。
 


正山陽子『バイバイバイ』


私のジャンルはJ-POP

大島:正山さんの資料にジャンルはジャズとあります。ジャズの新人賞を取られてもいらっしゃいます。正山さんの音楽は、ジャズなんでしょうか?

正山:いえ、多分J-POPですね。

大島:実際に僕も聴いてみて、ジャズとは違うように感じていたんです。

正山:ジャズって「言った者勝ち」というところってあるじゃないですか。一般にモダンジャズといわれる音楽でも「これジャズじゃないよね」というものはある。ロバート・グラスパーなども普通にジャズコーナーに置かれてますが、どう考えてもHIP HOPですし。だからリスナーがどういうものをジャズとして認識しているのかということによって変わるんだと思うんです。

 

ロバート・グラスパー

正山:私自身のルーツにはパンクがあるので、自分が創るものは全部パンクだと思ってるんです(笑)。パンクにもいろいろあって、クラッシュやピストルズから前衛的なパンクまで様々。ジャズにも幅があると思うんですね。私のがスタンダードジャズかというとそれは違う。曲を作る時に「なんじゃこりゃ」というものを作っても聴いてもらえないので、メロディはポップで口ずさんでもらえるものを作りたい。だからやはり私の音楽はJ-POPというのが一番適切なのではと思ってるんです。

大島:資料にジャズと書いてあるとCDショップでもジャズコーナーに置かれたりしますよね。

正山:ええそうなんです。私も最初それにはちょっと抵抗があって、「ジャズですか〜」と思ったんですけれど。アルバムのレコーディングメンバーにはジャズの人が多かったという理由から、ジャズコーナーに起きたいというレーベルの方針もあって。最初はタワレコでもジャズとJ-POPの両方に置かれてたんです。でもJ-POPに置かれるとタイトル数が多い中に埋もれてしまってて、気付いたらジャズコーナーで沢山売れていたんですね。だからジャズの方だけに残すことになったというお店が多いです。一方新宿のタワレコさんだとジャズコーナーがすごく奥の方にあるので、J-POPコーナーに置いてた方が売れたという例もありました。バイヤーさんや街のクセ、お客さんの年齢層などからどちらに置かれるかが決まったりするみたいです。

大島:ラジオでかかったりする時の扱いはどうなんでしょう?

正山:DJさんたちは基本的にジャズとは思ってないみたいです。「ちょっと面白いJ-POPだからみんな聴いてね」って感じで。それが功を奏して、変わってて面白いと。INTER-FMさんで最初にスタジオライブをさせていただいたんですけれど、洋楽好きの方がたくさん聴いていらっしゃる番組なのに大きな反響があって。今もリクエストが多く寄せられるそうです。そういうリスナーの方も別にジャズとは思ってないみたいですね。



唱歌〜日本語の歌詞を大切に歌う

大島:YouTubeの中に正山さんが唱歌を歌っている動画があります。正山さんのルーツはそういうところにもあるのでしょうか?


正山陽子『初恋(唱歌)』


正山:唱歌を歌ったきっかけは、実は私のおじいちゃんがパーキンソン病になってしまって。筋肉を使うリハビリのために歌を歌ってもらおうと『月の砂漠』をウクレレで演奏してあげたんです。すると歌は覚えてて、本能的に歌えたんですね。会話の言葉は出なくても歌は歌える。だからおじいちゃんが歌える唱歌のCD-Rを作って、プレゼントしたんです。それをピアノの人が「すごく良いから、みんなの前でもやったら」と言ってくれて。もう少し今の人が聴けるようなアレンジにしてライブで歌ってみたら、お客さんがすごく喜んでくれたんです。そういうのも私の大切な1面だと思っています。今回のアルバムを出す時には全体のカラーを考えて全曲オリジナルにしましたが、唱歌についてはライブでやりながら、また別の機会にアルバムに入れられればと思っています。

大島:そういう音源も出していくと、ジャズの人と思っていた方にも「あれ、正山さんってジャズだけじゃないぞ」という印象が広がっていくのでしょうね。



歌を始めるきっかけ 〜歌でなくとも構わなかった〜

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