さて、『dream you up』。レコードのスクラッチ音のユーフォリックなサウンドではじまる「get you back」から本懐としてのデデマウスがストリートに、クラブに戻ってきたのがわかる。ツアーも始まってゆく。凡庸な、「原点回帰」というアフォリズムではなく、何重もの螺旋階段をのぼってきたサバイバーゆえの音と意思が要所に、ひしひしと感じられる。EDMが隆盛しても、カルヴィン・ハリスが世界中で盛り上がっても、Arcaがいても、ポスト・インターネットの中での気泡みたく電子音が蒸化しても、経験値、センスのもとでの線引きの間違いなさはデデマウスをどこか慕情のエアポケットを誘い、未来的な何かへずっと向か居続けさせる。
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初音ミク的なポスト・トゥルース的なカルチャーやクール・ジャパン、濫造される電子音楽のなかで、無比な境地へとアプローチし、筆者的には今作では特に、バウンシーでなおかつ煌めくメリーゴーランドのような「whimsy love」で昂揚した。この雑然とも獰猛に五感を掻き乱す感覚は美しい。おそらく、日々はこの破片のカルナヴァルでできているとさえ―。いつもの駅や場所を降りて、階段をのぼるときによぎる「face to face」。疲れた祝日に出かけた街で流れている「hand on your hand」など、アルバムから怒涛の色彩があふれてきて、日常的な何かの再定義をゆがませてくれるマジカルな要素群が多々あるのは前提として。
―歌い、踊れ。そして、呼吸し生き(つづけ)ろ。
2012年の『sky was dark』というコンセプチュアルにして彼の美学を詰め込んだアルバムから、天の河を泳ぎ、クリスマスごとのファニーな曲のプレゼント、プラネタリウム・ライヴ、フェスやライヴ会場でこそ映える曲のフィジカル化、彼自身の過去への遡求に満ちたあいすべきレジスタンス、2015年の『farewell holiday!』での祝日のファンタジーとロマンティシズムにこれまでのエレガントな知性を詰め込んだ作品と、都度のライヴといい、アップデイトと回顧を往来してきたこの数年の昇華の過程がみごとにこの年におけるエレクロニック・ミュージックに適応(adapt)している。デデマウスがいる日本のダンス・シーンは安心だと思うほどに。