『疲れない音楽に向かうこと』

              musipl. 200レビュー達成において  文=松浦 達

 インディーレーベル、キラキラレコード主宰兼このmusiplというサイトのオーガナイズをされておられる大島栄二さんの気骨には畏敬の念を持っている。過去になにかと恩恵を受けてきた人たちは数知れず、各々には感謝の意は消えることはない。単純に、自身みたく、30代なかばの若僧の半可通に「好き勝手にやらせてもらえる」場所というのは実に少ないからでもある。

 musiplでは、ドレスコーズ『ゴッホ』について書いたのが一筆目だった。その時点では、場違い、異端者の役割を全うしようと思っていた。


 個人的なことでもあるが、今、奉仕と報酬のバランスをよく考えることがある。「互酬性」という言葉を使うと、難解になるかもしれないが、それぞれ(musiplの場合であれば、レビュワー、アーティスト、受容者、音楽市場)の要請差異はあれども、一般均衡が保たれていれば、自然と訴求力を増す、ということ。そうすれば、そこにマーケットが生まれ、さまざまな人が往来するようになる。musiplは大島編集長が「これから」のアーティストに向け、開いたサイトで、自らの音楽業界での長年の経験とレーベルを負う情勢、多くの他因子を鑑みて、的確な舵取りをしつつ、審美眼はつねに鋭く保っている。それはレビュワーとして関わっていても、よくわかる。だからこそ、特例を除いて、ほぼ月曜日から土曜日の正午に、レビューがUPされるという意義の重さが輻響される。

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 そして、セルフ、ファンからのレビュー、長尺記事、最近ではアーティストからのメッセージも届くようになったものの、紹介したアーティスト数もオリジナルでいえば、200もの数を迎えた。以前に1月に寄稿した『音楽が沈黙しない齟齬について』の段階での基本的な考えは変わらないものの、それから数か月経って、musiplの現状にはそのとき以上に、良い風が吹いているのも感じる。同時に、それを段階化し、マトリックス化するフェイズにも入ってきているとも。

 アーティストやバンドたちは、国や知名度、ジャンルもまったく違うのもあり、それでも、こうして、他のレビュワーの方々の力やファン、読み手、通りすがりの方々とともに紡ぎ上げることで、musiplは音楽が根源的に持つカテゴリーを越えた、可能性的な何かと想定外の拡がりを帯びるサイトに着実に成長しているのだとも想う。より巣立ってゆくアーティスト、再評価されるアーティストもいるだろうが、この文章で引っかかるところがあるならば、一度、このサイトのsearchにアクセスしてほしいと思う。

 そこに、ズラッと並ぶアーティストやバンド名は特殊で奇妙な訴求力がある。よく知っている名前に、どうにもまだよくわからない名前までの共存。一筋縄でいかない選曲チョイス。カオス理論ではなく、ここから始まってゆくうねりがありながら、どんどん面白く、注視に値するサイトになっているのがわかる。

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  このmusiplに通底するのはフレキシビリティと、レビュワーの厳密にして確固たる音楽への“コンシェルジュ的な何か”と“無邪気で単純な好奇心”の二律背反性と、巷間の拡大再生化される高度商業化された市場への短絡的なアンチ・テーゼではなく、もっと人肌の暖かみを通して、「音楽」が生活に馴染むコンパスであれば、という想慕の集積だという気もする。

 行き交う膨大な情報やデマに疲れたら、このサイトにアクセスしてみたら、そのタイミングで合う音楽、記事や言葉があるかもしれず、せめてもの、日々の生活で行き詰まった際の休憩所、街の喫茶店のようなサイトに成り得るという予感がしている。

 既存メディアが同じ作品を多方面からレビューし、捉えるのもいいが、このmusiplでしか得られない記事、コンテンツもますます増えてゆくだろう。

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  最後に、編集長の大島さんと初めてダイアローグを持ったときに、以下の彼の名前が真っ先に出てきたのは必然のようで、何だか今ではどうにも面映ゆくも合点がいく。

 この程よいテンションが”スローバラード”のようになだらかに続き、新しい磁場が形成されゆくことをレビュワーの一人として願っている。


 RCサクセション『スローバラード』

2014.4.21.寄稿