ヤングスキニー『バンドマンの元彼氏』
【あり得そうもないことを歌う、一種のファンタジー】
男のダメなところを女の視点で歌うヤングスキニーの曲。出てくる男のなんと勝手なことか、ダメなことか。それを、女が許している。別れてもなお好きだという気持ちを残している。そういう妄想のようなものを男が歌う。ずるい。というか、バカだよなあ。これはつまり男の「こうだったら良いよなあ」みたいな勝手なことを歌っているのであって、空を飛べたら良いのになあ、みたいなものと解釈すべきだろう。リアルな現実をそのまま歌ったところでなんの感動も生まれなくて、あり得そうもないことを歌う、一種のファンタジーを歌って提供しているのだ。もうね、王子様が野獣とか、女王が触るものみんな凍ってしまうとか、木の人形の鼻が伸びるとか、そんな感じのファンタジーの一種。男性だけが「こうあってくれたら本当にいいのにな」という願望だったり妄想だったり。歌詞の中で「今でも貴方は私のことを/元カノとか言って歌にしてくれたらいいな」とか歌ってるけれど、この歌詞の世界を「こうだったらいいのにな」と思って憧れる男は、99%そんな元カノの歌など作らない。こういうのを聴いて、ああ、女はこんななんだねなどと思い込んだらきっと大きな失敗をするんじゃないかと思うよ。そういうアホな男はSHISHAMOの『君の大事にしてるもの』を聴くべきだろう。そして青ざめるべきだろう。まああれはあれで中途半端なバンドマンにイラつく女の側からの歌であって、同じようなことをできる女も少なかろうし、そういう意味で「こんなことができたらいいのにな」みたいな女の側のファンタジーであって、真に受ける必要はないだろうけど、このヤングスキニーの歌を真に受けてしまうよりは1000倍ほどいいのではないだろうか。
(2021.6.28) (レビュアー:大島栄二)
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