スチャとネバヤン『ネバやんとスチャやん』
【新しい時代のメッセージソング】
Bose、歳を重ねたな〜。ベースボールキャップをかぶった彼おきまりのスタイルは健在で、それが重ねた年齢とのギャップを一層に増している。おっさんになったらあまりかぶらないものな、野球帽。でもそれは彼のスタイルだしトレードマークだから仕方ない。誰がどんな資格で立場で「仕方ない」とかいってるんだよまったく。誰がどんな格好してたって別にいいじゃないか。いいんだよ、おっさんだってじいさんだっておばさんだってばあさんだって、野球帽被ろうがどうしようが、誰からもとやかく言われなくていいのだ。本当にすみません。
そんなスチャダラバーのみんながNEVER YOUNG BEACHと組んで、スチャとネバヤン。ネバヤンって、ネバやんみたいに思えるな。と思ったら曲のタイトルにネバやんって書いてある。おしゃれなバンドとして登場した彼らがネバやんって、大阪の下町のおっちゃんみたいで、大丈夫かと思う。でも、大丈夫だよな、きっと大丈夫。
スローなテンポで進んでいくこの曲。スチャっぽい緩やかなHIP HOP。いい感じに韻を踏んでる感じもありつつも、それより言葉の内容に耳が意識が向かっていく。意識高い系の人たちが目指す「人生かくあるべき」みたいな憧れが淡々と羅列されていく。そのすべてに「〜たら」や「〜れば」がつく。たらればだ。羅列される「かくあるべき」が、彼らの歌声に載ると急激に価値のないものに聞こえてくるから不思議だ。価値がないというより安っぽい感じか。意識高い系のセミナーなどに行ったとしたらすごく価値の高い目標として「頑張ろー!」とか言われるのだろうし、それが実現できないのは負け組みたいな言われ方するんだろうけれど、この歌で歌われる限り、「アホかいな」という気分になれる。
人は目標がないと生きていけないなどとよく言われる。そういう言葉を耳にするとそういうものかと思い込んで、目標を設定しなきゃと躍起になる。目標を設定して最大限にうまくいったところで、理想を100%実現するなんてことはありえない。その結果少々の挫折感や大きな挫折感に苛まれることになる。20代や30代にはできていたことも加齢とともにできなくなってくる。才能あふれる若手の登場で立場が脅かされることもある。大体高度経済成長期やバブルの時代に社会人デビューを迎えていればなんの苦労もなかったはずなのに、失われた20年に社会に出ることになった人は、その人の能力とは関係なく不遇を味わうことになる。理不尽だが、仕方ない。そんなことにイライラしたり絶望したりしたところで、事故などなければ80年ほどは生きなきゃならないのであって、自分はなんと何もできない人間なのだろうと思ったところをベースにして、なお明るく生きていける術こそ、これからの時代に必要なスキルなのではないだろうか。
かつては恋愛問題が歌謡曲のほぼ100%だった時代があった。メッセージソングなんてものが登場したのは80年代のことだ。メッセージソングの代表格『My Revolution』もバブル崩壊の数年前にリリースされたわけで、そういうのに鼓舞されて、当時の若者は社会に出ていった。24時間戦えますかとかいう歌もあった。頑張れば結果が出る時代にはそういうメッセージも意味があったかもしれないが、社会が落ち込んでいく中で、頑張ったってうまくいかない人は多く、結果メンタルをやられる人も続出した。メッセージソングだけの話ではないけれど、鼓舞する系メッセージソングの功罪というのはあるよなあとつくづく思う。
このスチャとネバヤンが歌うのどかでコミカルなテイストを持った曲は、そんなに頑張るなよというメッセージソングだと思う。今の時代の、困難が予想される時代に社会に出る若者が、心を病むことなく軽やかに生きていくためのヒントが曲に詰まっているし、それを歌う彼らの態度にも、大切な何かがにじみ出ている。
(2021.6.26) (レビュアー:大島栄二)
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