タケモト リオ『21』
【表現者としての覚悟を経て次に進むという決意】
作品を作り表現をする。絶対の正解などない上に、運営していくためには金銭的な収入も不可欠という状況の中で、誰もが悩む問題についてとても真摯に向き合っている歌。絶対の正解などないのだからもちろんこれが答えだと結論づけることも難しいことなのだが、悩んで悩んでひとつの答えに行き着く過程が1曲の中に情熱的に込められていて、聴いていてこちらの背筋も伸びる想いがする。こういう自分に向き合う系の歌というのはアコギ1本弾き語りという場合が多く、その分汗臭く泥臭いものになる。もはやオッサンとしても後期の部類に入るようなフォーク世代ならばその泥臭さも心地良かろうが、令和の時代にそれはダサいという言葉さえ完全に時代遅れで、だから、フォーク世代の感傷的なサウンドなど通用するはずもない。自分に向き合い原点を探るような歌を表現しつつも、タケモト リオの歌う『21』はジャジーな雰囲気さえ持ったポップさに彩られている。タケモト リオの歌声自体はある種の泥臭さを持った真剣そのものの野太い声なのだが、このポップさを持ったサウンドのおかげで、そんなにシビアな心持ちに落ち込むことなく聴くことができるし、最後に結論づける「この声でありったけの今を歌い続ける」という、ある意味開き直ったような想いにも、随分と希望が付け加えられているように思えてきて、心地よさを増幅させている。この春に5曲入りの1st.アルバムをリリースした彼女の、一線を超えてさらに前に進むのだということと、だからといって原点にある、歌うべき理由というものは1mmもぶれさせないということの、両方の決意が込められている曲だ。MVでは最初の4分40秒ほどまでは両サイドが黒で覆われた、昔のテレビサイズの映像になっているのに、そこからスマホで撮りましたかというような小さな映像が数カット挟み込まれ、最後は現在のテレビサイズのフル画面に変わっていく。ここにも、表現者としての覚悟を経て次に進むという決意のような何かを感じてしまう。
(2021.6.10) (レビュアー:大島栄二)
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