V6『僕らは まだ』
【転機に際して隣で笑顔を見せ合える友達】
V6解散。それは11月の話なのでまだ解散しているわけじゃないけれど、解散することはすでに発表されている。カミセンとかトニセンとかいってた彼らもカミングセンチュリーであるはずの21世紀になってもう20年、メンバー全員が40代になっているのだから、新しい人生を歩みたいと思うのも当然だろうなあという気がする。それにしてもこういうMVがレコード会社のチャンネルから当たり前のように公開されていることに時代の変化を感じてしまう。かつてジャニーズ所属の人の写真はネット公開一切禁止で、彼らが表紙をつとめた雑誌の表紙を、ネット販売する際に表示させないくらいに徹底していた。だからMVが公開されるなんてあり得なくて、個人のチャンネルがテレビで放送していた番組の一部を勝手にアップしてるようなものはどんどん削除されていた。V6が20周年の際にリンクを貼った『MUSIC FOR THE PEOPLE』の動画もいつの間にか削除されてたし。こういう変化、ジャニーさんの死去が影響しているのかと思って調べてみると、単純な区分ではないので難しいけれど、2017年頃から徐々に緩和されてきたらしい。とはいえ、V6の動画についてはレコード会社のavaxでの公開で、約1年くらい前から過去MVなども順次公開されるようになっていた。音楽ビジネスもCDやDVDというパッケージを売るというものから、ストリーミングで1回再生されたら0.1円から1円程度の収入を得られるというものに変わってきていて、V6のようにコアなファンに支えられるアイドルの場合はまだパッケージの比率が高いのかもしれないが、avaxといったレコード会社単位では、もはや全世界で何億回再生されるのかということの方が重くなってきているはずで、だからレコード会社がリリースする音源のMVを公開するというのはもはや避けられないというよりも当たり前の時代になっているのだろう。
それにしても、このMVに映るV6の面々のなんと自然体なことか。仲がいいのだろうなあというのが画面から伝わってくる。ジャニーズの先輩で、解散というよりも分裂に近い終わり方をしたグループのことを考えると、役者としての新たな一歩を踏み出したいという森田剛の想いを全員で尊重して解散という結論に至った彼らの、解散とはいえ結束が強いのだということが際立ってくる。解散というとそれまであるものが崩壊してしまうようなイメージがあるのだが、MVの中の彼らにはそんな悲壮感はかけらもない。僕は特にファンではないものの、ファンはこういう映像を見て、安堵しているのではないかと想像してしまう。
全員40代となった彼らが歌う『僕らは まだ』。歌詞に注目して聴いていると、ああ、本当にそうだよなあと心から頷ける。子供の頃に周囲にいた大人達は本当に大人で、しっかりした人間に見えていた。自分もいつかそうなると思っていたけれど、実際にはそんなことはまったくなかった。高度経済成長期の大人と、バブル崩壊から失われた20年の時代の大人とでは条件は違うのかもしれないし、単純な比較は出来ないけれど、それでも、高度経済成長期の大人達も、子供には見せていなかっただけで、その心情は不満にくすぶったものだったのかもしれない。オッサンになってしまった同級生達と話していても、口をつくのは愚痴と将来へのそこはかとない不安。あまりにも未完成のままに人生を終えてしまうんじゃないだろうかというニュアンスが話の端端から漏れてくるし、思いっきり共感するしかない。そんな不安定な大人になるなんてことは誰も思ってもいなかっただろうに、現実はほぼ全員がそうなっていく。V6のメンバーは、そんなことを今思っているのだろうか、それともただ作詞家が書いた歌詞に過ぎなくて、実際に歌ってはいるものの、この歌詞理解できないんだよなとでも思っているのだろうか。その真実は解る訳もないけれど、人生の半分以上を共に過ごしてきたメンバーとのグループが解散となり、新しい生き方を初めて行くしかない状況で、不安などかけらもないという方が不自然で、だから、彼らもきっとそんな不安定な大人になっていることの戸惑いを感じているんじゃないかと思いたくなる。
彼らは解散しても、時に応じて協力しあって互いを支えていくのではないかと普通に思える。そのことは、一般人がリストラとか転居とか、さまざまな理由で新しい道に進まなければいけなくなる時にも重要なことで、友達や仲間という存在は大きいよなあと改めて思わされる。できることなら、転機に際して隣で笑顔を見せ合える、彼らのような友達がいればとつくづく思う。
(2021.6.5) (レビュアー:大島栄二)
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