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クジラ夜の街『ラフマジック』
【絶望的な状況を歌にしつつも、ハッピーエンドに感じさせる力を持っている】

この浮世離れした感が全体に広がっていて面白い。ちょっとしたフレーズや語尾の発し方、挟み込んでくるリフに、何よりこの物語性などがamazarashiに似たところがあって、しばらくはそんな感じにカテゴライズしつつ聴いていたけれど、なんか違う、決定的に違うぞと感じるようになってくる。それは、全体が希望に向かって突き進んでいるところだ。もちろんamazarashiだって希望に向かって希求する歌がほとんどなのだけれど、現状認識がヘビーすぎて、どんなに頑張ってもプラスに向かっていかないよねという諦めが先に立つ。しかし、このバンドのテイストは、なんだかんだ言いながらも結果は必ずプラスに向かうんだと思わせてくれる何かがある。いや、歌詞を丁寧に読むと、完全な絶望の縁にあってもうダメだという結果しかない。なのに、聴いててプラスへの希望を感じられる。それは、この曲では「僕らは僕らがいないとうまく笑えない」という設定になっていて、だったら僕らが一緒にいれば笑えるし、いい方向に向かえるのではないかと思えるからなのだと思う。物語性があって、その物語に強く引きこむと、聴いている第三者までその物語の悲劇に取り込まれてしまう。しかしその物語がスクリーンの向こう側で展開されているだけであれば、上映中はハラハラしつつも、明かりが灯れば自分の日常に戻ることができるし、物語を他山の石として参考にすることもできる。この曲は絶望的な状況を歌にしつつも、「ハレルヤ、幸あれ」と繰り返すサビの効果で、全体をなんとなくハッピーエンドに感じさせる力を持っているし、絶望と希望が並行して存在することで、過度に物語に没入せずに済む構造に結果としてなっている。MVで幼い2人と老女になった現在とが交互に映されることも、同じような効果をプラスしているようだ。

(2021.5.31) (レビュアー:大島栄二)


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review, 大島栄二

Posted by musipl