Aily LULU『ぬくもり』
【負のエネルギーに満ちているのに、ほんのりと優しくてあたたかい】
暗い部屋の中でほとんど動きのないMV。ベッドのようなところで寝てて、起きるけど灯はつけずにスマホを眺めて、またうずくまる。暗い部屋の中でスマホを眺めると顔面だけが照らされて、ちょっとばかり「オバケだぞ〜」って言ってる人みたいに見える。それを異常と見るのかどうか。いや、僕らの日常だよねそれ。ずっとベッドから動くことなくこのまま1日が終わると思って、少しばかり正常な側からダメな人を眺めるような気持ちになって、オイオイそんなんじゃいかんぞとか叱咤激励してしまいそうになるけれど、曲がほぼほぼ終わるタイミングで、その人はベッドの上から立ち上がってカメラの方に歩いてきて、画面から出ていく。その間4分20秒ほど。たった4分20秒ほどで映像に映る人のことを自堕落な日々を過ごしているとか思い込んでしまった僕を含めてすべての人は、それ自体がちょっとヤバいということを自覚した方がいいのかもしれない。
Aily LULUという大阪のバンドには、SNSのアカウントはあるもののどうやらwebサイトとかホームページというものが無いようで、結成以来の細かな活動歴とかプロフィールみたいなものはよくわからない。だからこうしてMVを眺めながら想像したり、妄想したりするしかないのだけれど、このMVを見ていると、暗い部屋の中で起こっていることはある程度わかるけれど、ピントをずらしてあってぼやけているし、そもそも暗いので明瞭なことは何もわからない。それってこのバンドのことを知ろうとしてもなかなか明瞭な事柄に辿り着けないということととても似ている。映像がこんなに暗くて、曲のタイトルは『ぬくもり』で、歌詞にも不安とか馬鹿らしいとか負のエネルギーに満ちているのに、曲全体から受ける印象はどういうわけだがほんのりと優しくてあたたかい。それはこの声の故なのだろうか。彼らのYouTubeチャンネルにはもう1曲だけMVが公開されていて、そちらはもう少しアップテンポでパンチのある演奏の、バンドっぽい曲だった。そういう曲調だと全体的にノリノリで気持ちが前に前にと押し出されるものなのだが、実際にはそんなに前向きにもなれず、ちょっとだけの物足りなさ、物悲しさに包まれるようで切なかった。それに対してこういう全体的にマイナスっぽさが溢れる曲で、前への意思というか、強さ、暖かさを感じることができて、そのギャップが妙に興味深かった。
(2021.5.27) (レビュアー:大島栄二)
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