akagane bridge『藍色の季節』
【全体的にチャーミングなポイントが溢れてるMV】
このMV好き。音楽がとか、バンドがとか、そういうこととは関係なし(評価していないという意味ではありません)に、このMVが好き。どういうことかというと、この浜辺で演奏しているシーンを撮影しようと思い立ってから、実際に浜辺まで楽器を持って移動して、セッティングして、さあ撮ろうかというあたりまでが全部セットで想像できてワクワクするからだ。彼らがこの浜辺のすぐそばに住んでいるのではないと思う。住んでいる周辺というのはその人にとって日常でしかなくて、日常でしかない場所でMVというのは撮れないものだ。いや、あえて日常の中で撮るみたいなことはあるには在るけど、それは日常を描くスローテンポのポップバラードやフォークソングの話であって、ドラムを実際に叩くようなロックナンバーに、日常の一部での撮影は似合わないと思う。少なくとも僕が撮るならそんなことはしない。だとすれば、彼らはそんなに浜辺体験がない中で、撮影できる浜辺を探したはずだ。プロならスタッフがロケハンをして実際にどの立ち位置で演奏して撮影するのかというところまで決め込んでからやるが、そこまででなければ、普通はその日に車で移動しながら撮れそうな場所を探して、この辺なら大丈夫なんじゃないのとか思って車を降りるけれど、いざ現場に行ってみたら思うように撮れそうもないことに気づいて、再び車に乗り込んで移動、みたいなことを繰り返すことになる。このMVでは風力発電のための風車がたくさん立ち並んでいて、元からあの風車のところで撮ろうぜみたいな話をしていただろうということは想像できる。で、セッティングして撮り始めて、MVだから何度も演奏して、カメラの位置をいろいろと変えながら何テイクも撮るわけだが、走行しているうちに風車の影がどんどんと動いて、ドラムが完全に風車の影に隠れることもしばしば。MVでは何テイクもした映像を繋げることで、あたかも1回の演奏を多数のカメラで追っている風な作品に仕上げることが前提のはずなのに、影に隠れているカットと強い日差しを浴びているカットが一緒になってて、うわ〜影きたよ〜どうするどうする〜仕方ないよ〜とかいいながらも、決行。で、編集。これをOKとするかNGとするかはいろいろ意見あるだろうけど、僕はOK派。とても良いと思います。ギターボーカルが砂浜の砂地の上に立ってるんじゃなく、ちょっとだけ地表に表れているコンクリートブロックの上にちょこんと立って演奏しているのも、なんかチャーミングで良い。全体的にこういうチャーミングなポイントが溢れてて、とても好感度高い。
彼ら、昨夏に公開した『夏の君』というMVも砂浜で演奏してるシーンがメインで、もしかしたら砂浜大好きなのだろうか。だとしたら普段から砂浜巡りをしてて、この風力発電ポイントも「いつかここでビデオ撮ろう」とか思ってたかもしれない。そうだとしたら上記の想像の前提がすっ飛んでしまうのだけれども、だとしても、このMVのチャーミングさが損なわれることはまったくないのだ。
(2021.5.11) (レビュアー:大島栄二)
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