TRIPLANE『東京』
【今こそより必要性を増している、優しい歌】
いいな。TRIPLANEの歌はどれも沁みる。だがこの『東京』は特に沁みる。思えば10年とちょっと前に東京を離れて京都にやってきて、以来その場所は住んでた頃よりも特別な場所になっていった。そもそも憧れて行った場所だ。そこから離れることで、憧れていた時の気持ちが少しだけ復活したように思われる。知らなかった頃の憧れとは違い、そこに懐かしさも加わった特別な感情。これはきっと一生変わらないものだろう。
東京は元々は地方に暮らしていた人が移り住んできた割合の高い街で、かつての僕と同じように憧れをもっていた人が多い。だが、憧れと現実が一致することなど極めて稀で、先進の街というハイな部分と、だからこそ生まれる闇のようなものが同居していて、人々はその現実と折り合いをつけるために時に悩む。折り合いなんてつけられるのか。ただただ流されるように生きていくだけだろう。もちろんそうだ。それでも、その流されているばかりの日々を折り合いをつけている過程と思い込んでいかなければやりきれない。この曲は折り合いをつけつつ東京で暮らしている人への応援歌のようなもので、優しさと明確な意思が全体を貫いている。サビのところでそれまでとは少し転調なのかキーの変更なのか、よくわからないけど明確なトーンの変化があって、現実から理想への心のギアチェンジをさせてくれるようだ。ギアチェンジするものの、そこから120%張り上げたようなシャウトをするわけではない。もしもここで強烈なシャウトをされたとしたら、少々心折れそうな人は、もう付いていけません的な気持ちになるかもしれない。もちろん、強いシャウトで鼓舞された方がいいという人もいるだろう。だがそういう人はそもそも鼓舞を必要としていなくて、だから、心が折れる一歩手前の人に対して、付いてこられる程度の適度な優しさが特に意味を持ってくるように感じられる。そんな、優しい歌だ。こういう優しい音楽の力は、多くの人が生活の土台を揺らされている今こそ、より必要性を増しているのではないだろうか。
(2021.5.1) (レビュアー:大島栄二)
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