Sean『LAの道を-Road of LA-』
【この人天才かもしれんとか不覚にも思ってしまったりする】
あやしい外国人の不思議な曲のMV。あやしいけれど、なんかイイ。なんかというか、めっちゃイイ。MVの中で黄緑のジャケットを着てるのがどうやらSeanくんらしい。この曲を含めて数本のMVを公開しているのだけれど、どれにも彼の音楽愛が溢れていてグッとくる。その中でもこの曲がもっともナチュラルに音楽と向き合っているような印象で、ゆったりとしたリズムとともにすんなりと耳から心に沁みわたってくる。歌っている内容は、自分が何も知らなかったということや、「君」のことが大好きだということ。「君とLAの道を歩くのを夢見ていたよ」と歌ってて、そんなこと歌われても背筋にゾゾゾッとした冷たいものを感じるだけだと思うけれど、そんなことを思ってるくらい、この曲の主人公は夢中で冷静な考えなんて持てない状況なんだなということが伝わってくる。思われる「君」にとっては反吐が出そうだろうけど、第三者として聴く分にはほのぼのとしてくるばかりで好感持てる。
外国人で日本において音楽活動をするということはどういうことなんだろうか。僕自身もかつて外国籍でありつつ日本で音楽活動をするミュージシャンと一緒に仕事をした経験が複数回あるが、言葉の壁や習慣の壁、価値観も違ってたし、なによりビザの問題が大きかった。日本のミュージシャンなら単に売れるとか売れないとかの点で悩めば済むところを日本で働いていいのかとか、そもそもいつまで国内に居られるのかとかで悩まなければいけなかった。音楽をビジネスにする場合ある程度の先行投資をする必要があって、投資をしたものの国外退去になったらなんて考えるとなかなかそれも難しい。いや、日本人ミュージシャンだって飽きて辞めちゃうというリスクは常にあるのだけれど。
SeanくんはYouTubeチャンネルの名前が「Sean Japanese Songwriter」となってて、これが「日本人のソングライター」なのか「日本語でソングを書く人」なのか、よくわからない。昨今は外国人の顔で日本人というケースも増えてきているし、彼の日本語もめっちゃ流暢なので、彼が日本人である可能性も全否定するわけではない。LAの道をとか歌っているけれど、ロスアンゼルスに一度も行ったことないということだってあり得るだろう。ただ、この曲とは対照的な『君のバンドが嫌い – I don’t like your band -』という曲で、彼は日本の音楽シーンについて「彼らのやってる事は全部真似事じゃないか/あんなの偽物だよ/そこに愛も情熱もないんだ」とかなり辛辣な非難をしていて、だからそこには海外の文化の視点から日本の音楽シーンを見ているということがよくわかる。だから、やっぱり彼は外国人、少なくとも文化のベースを海外の文化土壌に置いている人なんだろうと思われる。そういう視点で作る音楽を日本で展開するということは、ある意味オリジナルなものが作れる可能性を大いに秘めているといえる。そこにこれだけのサウンドメイキング力があれば、結構いいものを生み出すことが出来るんじゃないかなあと今から楽しみになってくる。
そんな彼が、昨日からクラウドファンディングで新曲の制作費を集めようとしているらしい。そのプロジェクトページで彼はミュージシャンとしてやっていくことがどれほど大変なのかを切々と語っていた。個人的にはそんなのどうでもいいし、音楽やってる人は99%大変な想いをしながらやっているので、何もSeanくんだけの苦労ではない。だが、その動画の後編でさわりだけを紹介している『世界は僕らをゆっくりと引きずり下ろしていく』という曲が、シリアスな外見をまといつつこの『LAの道を』に通じるすっとこどっこい感を持っていて、ああ、やっぱりこの人天才かもしれんとか不覚にも思ってしまったりする。頑張って欲しいと思ってしまったりする。
(2021.4.26) (レビュアー:大島栄二)
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