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コレサワ『愛を着て』
【きっといろいろな表情があるのだろうし、いろいろな可能性を見せ得る名曲だよ】

コレサワのMVがアニメじゃなくて実写だぞ。ちょっと驚いたが別に本人が登場しているわけではない。本人がどんな顔なのか知らないので本人ではないと断言するわけじゃないけど、多分違う。で、これまでの恋愛モード全開のような曲とも違ってて、静かで切ない。この『愛を着て』はNHKみんなのうたに採用された曲ということで、そりゃあ恋愛全開の曲というわけにもいかないだろう。だから歌詞を味わいながらじっくりと聴いてみる。これは、成長の歌だ。「あなた」が靴ひもを自分ひとりで結べるようになったと嬉しそうにしている。親の立場でももちろん嬉しい。でもそれはいつでも一緒だった子どもが自分の世界に出かけ始めることで、だから、少しだけ寂しい。

2年前にレビューした『パープル』にも親として子どもを見る視点で僕は聴いた。ちょうど卒業式シーズンで、保育園を卒園する息子の新たな世界への出発とそれまでの世界への惜別と。だが息子は親が思う以上に小学校に適応した。子どもを通して見ている親の世界の見え方と、子ども自身の見え方は違うんだなということをその時に痛感した。それはあらゆる時点、あらゆる場面でそうなんだろう。当たり前だ、別人格なんだから。かつての自分がそうしたように、息子もやがて親とはまったく別の暮らしをするようになる。それはちょっと寂しい。だからといって靴ひもの結び方をずっと教えずにいられるわけではないし、教えないでいたとしても、知らないどこかでそのやり方を知るのだ。そうして親が知らないことまでもどんどんと知っていく。それが成長というものだし、そうでなければダメなのだ。ということはわかっているけれど、その成長は、嬉しくて、少しだけ寂しい。

親の視点と子どもの視点がまったく違ってて、視点が違えば見えてる世界の姿も違ってて。それはこの曲をどの視点で見て聴くのかで、歌の姿がまったく違って感じ取れるということと似ているような気がする。デビュー前からのコレサワのファンが新作として聴く『愛を着て』と、NHKみんなのうたで初めてコレサワの曲を聴くことになる人の『愛を着て』と。10代が聴く『愛を着て』と子どもを持つ親が聴く『愛を着て』と。きっといろいろな表情があるのだろうし、いろいろな可能性を見せ得る、甘くて切ない名曲だよこれは。

(2021.4.19) (レビュアー:大島栄二)


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review, コレサワ

Posted by musipl