claquepot『useless』
【歌ってる意味もわからずただただスタイリッシュなサウンドに酔ってしまう】
落ち着きのあるスタイリッシュなサウンド。それなのに歌詞はスタイリッシュというよりも泥沼にはまって抜けられないみたいな、人生再起不能な内容で、このサウンドに適してるんだろうかととても不思議な気分になる。シティポップみたいなスタイリッシュな音楽ってある意味ナルシズム的な全肯定な表現だと思ってるし、そういうので彩られるから、ああ、都会ってカッコいいよなあという田舎者の幻想がどんどん強化されたり、都会でそれなりに辛い現実に晒されていても、それでも都会だからまだ恵まれてる方だみたいな納得のさせかたが出来る、そういうツールなんだと勝手に思ってる。だからこのスタイリッシュなサウンドでどうしようもない現実のどうしようもなさ、手に負えなさを歌ってしまったら、もう現実をそのまま受け入れなきゃダメなのかよという絶望感に苛まれる。と思う。しかしながら、こうして聴いていると、うーん、どうなんだろう、何故だが、そんな絶望感はそんなに起こらない。もちろん歌詞が最後の段階で「とりあえず降りちゃえば」「戦い過ぎなくてもいい」という感じの逃げ道を提供してくれていて、それが絶望の底に突き落とさないのだという説明はできるかもしれない。でも、それはやはり違うのだ。歌詞を深掘りしなくても、音楽がサウンドが既に前面でリスナーにアタックしていて、スタイリッシュなサウンドであるということだけで不思議な安堵感や一種の麻痺感覚を与えているのだ。考えてみれば洋楽の言葉もわからない曲を聴いても普通に感動できるわけで、それと同じことなのかもしれない。歌ってる意味もわからずに音に酔える。音楽ってすごいな、今さらだけど。もしかすると作者はもっとちゃんと歌詞もていねいに読み込んで、歌の内容をきちんと把握して欲しいと思っているかもしれない。というか普通そうだろう。そのことは理解して尊重した上で、それでもなおサウンドの持つパワーというものも否定できる訳もなく、ただただスタイリッシュなサウンドに酔ってしまったのだ。
(2021.4.12) (レビュアー:大島栄二)
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