Penthouse『26時10分』
【様々な試行錯誤を繰り返した結果、ようやくここまで辿り着いたシティソウル】
東京大学発6人組「シティソウル」バンド、なのだそうだ。東大でこの音楽センスって天は二物を与えたな。と普通に思う。じゃあ本当にセンスがあって軽々とこの曲のクオリティを生み出したのかというとそうじゃないのではないか。過去のMVをふたつほど見る。『Stargazer』と『ロングサマー・ブレイク』。この『26時10分』には曲のクオリティとはかけ離れたウソ臭さがあって、それがなんともいえない味になっているし、曲を引き立たせている。それは全編英語詞というところにもあって、なんか不思議ないかがわしさを生んでいる。そしてこのいかがわしさこそ、彼らの魅力なのではないだろうか。それを浮立たせるためにわざとそのウソ臭さをMVに取り入れていると思う。ボーカルの2人がケチャップ瓶やキャンディーをマイク代わりにして歌ってたり、メンバー同士が不自然なまでに接近して画面に入れこまれてたり。それまでのMVではいかにもな演奏シーンをきちんと撮影してるし、日常カット的な映像も入れこんでいる。そこそこに気をつかって頑張って普通なビデオを作ってる印象。歌も日本語で真面目に歌っている。わかりやすいが、ついつい聴き流してしまう。それに較べてこの曲とこのビデオ。シティソウルの「ソウル」部分がめちゃ強調されているように感じられるし、何かの壁を突き抜けた印象。そう、天が与えた才能みたいなものにあぐらをかいてオフザケ的に音楽をやって容易に成功を収めているのではなく、様々な試行錯誤を繰り返した結果、ようやくここまで辿り着いたのだ、多分。彼らが掲げている「東京大学発6人組」というキャッチフレーズはやはり目を引くし、最初の話題作りとしては有効だったに違いない。だがそれに引っ張られるともっと大事な何か、例えばこれまでの試行錯誤や作品に込めた意図みたいなものを見落とされることになるので、どこかの段階でそれを降ろすべきだろうし、きっとそうなっていくだろう。それはまた「ピアニストにかてぃんが参加」という看板も同じことで、このかてぃんという人のYouTubeチャンネルは68万人とバンドチャンネルの30倍だし、動画が軒並み100万回超えということで、有名な人なんだろうということはよくわかるし、かてぃんからのファン流入も無視できないはず。しかしそれさえそのうちに看板として掲げるのはやめて、バンドとしての人気や実力で勝負していけるようにした方がいいし、きっと早晩そうなっていくのだろう。
(2021.3.22) (レビュアー:大島栄二)
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