MELTME『Virus』
【おどろおどろしい歌詞をすべて包み隠してしまう圧倒的な爽やかサウンド】
鼻から血を流している男が歌っている映像がずっと映されている。その男が歌っていると思われる歌はクセが強くて、その歌声だけでは何と歌っているのかがすぐにわからない。まるで本当に口や鼻の中を切っていてまともに歌えないのではないかと思うくらいだ。そこで彼らのウェブサイトを見てみる。「生きにくいあなたの嗜好品」とよくわからないキャッチフレーズが載っている。「様々な音楽を自由奔放に呑み込み、躁鬱性の強い独特の歌詞世界で表現する」と書いてある。なるほど。たしかに躁鬱性が強いかもしれない。「首を絞めて殺した」とか歌ってるし、ヤバい歌詞を表現している。他の部分もちゃんと聴きとろうとするけれど、歌い方が特殊というか、変な発音の連続なので何と歌っているのかは正直よくわからない。よくわからないけれど、積み重ねられる言葉の断片からは負のエネルギーがこの歌に満ちていることは伝わってくる。なのに、全体から醸し出される爽やかさ。音楽の力としか言いようがない。AORと言っていいのか。それともそんな旧いジャンルを持ち出したら「老害」と罵倒されるのか、よくわからないけれど、このギターが醸し出すのはたしかにAORというべき問答無用の爽やかさで、歌詞とMV中のボーカルの挙動が生み出しているおどろおどろしさをすべて包み隠してしまうくらいの勢いで、全体を爽やか一色にさせている。このサウンドで歌えば、どんなにヤバい歌詞だってさらりと歌えてしまうのではないかという気さえしてくる。音楽の力ってすごいなあとあらためて思い知らされる1曲だった。
(2020.8.27) (レビュアー:大島栄二)