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Shiki『選べない』【明確にしないことがアイデンティティのバンドなのだろうなあ】

熊本を拠点に活動するというドラムレスバンド、Shiki。ドラムレスといいつつもトラックにドラムの音はしっかりと入っている。それもそのはずで、彼らは基本DTMで創作活動をしていて、冒頭のバンドロゴにも「Desk TopMusic Drumless Band」という文字が入れられている。今ではそういう音楽活動形態も珍しいものではないし、むしろ普通のこと。こういう場合にドラムレスとわざわざ銘打つことにどんな意味があるのだろうか。ピアノをメインにしているバンドがピアノロックと主張することは多いが、逆にメンバーにピアノがいないバンドがピアノレスバンドということはまず無い。そういうバンドが曲によってピアノやシンセの音を取り入れていたとしても、しなくても。もちろんメンバーとしてドラマーがいないのだから、ドラムレスバンドといっても間違いではない。が、なんとなく、どうなんだろうという疑問はちょっとだけ残り続ける。

彼らのサウンドはDTMによる宅録音源をベースにしているためか、細部にわたって細かな調整が加えられている。聴いたことのある音と、それとは微妙に変化させられた音が混ざりあって、結果としてとても心地良い浮遊感をもって迫ってくる。ボーカルにも独特のエフェクトが施され、この無機的な響きが元々ボーカルが持っていたものなのか、それともエフェクトによって付け加えられた性質なのか、その境界線が曖昧になっている。どちらかが明確になっていると聴いていて飽きるもので、その点ではこの曖昧さは何度聴いても飽きない理由のひとつになっているようだ。

この曲で歌われている詞の内容は、何をも選べないという無力感に覆われている。ともすればその「選べない」という状況を2020年の現代特有の状況と思ってしまいがちだが、よくよく聴いてみるとそうではなく、いつの時代にも存在する未来への不確実さについてより多く触れているように感じられる。「感じられる」と書いたのは、断言できるほどに明確に言い切っているわけでもないからだ。論文とは違って歌詞にはそういう曖昧さが許される。許されるというより、曖昧さが残ることで聴き手に想像することが可能になってくる。MVでもメンバーの顔や表情を明確に映すのではなく、かといって完全に覆面バンドにして隠すというのでもなく、逆光や暗めの照明などで常に曖昧な状況をキープしていて、ああ、このバンドは明確にしないことがアイデンティティであり、表現のベースなのだろうと確信した。

(2020.8.25) (レビュアー:大島栄二)


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review, 大島栄二

Posted by musipl