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メメタァ『wall around』【いつまでそうしているつもりなんだとこの曲は迫ってくる】

誰もが逆風吹き荒れる中でこれからを考えずにいられない時期。そんなことは10代の専売特許だったはずなのに、今や誰もがこれまでの予測が通じない世界で悩み苦しんでいる。自分には一体未来はあるのかと。

そんなこと、これまでだって正社員で終身雇用なんてものが消え去り、世界の経済大国というものが幻想になってしまって、何を今さらという気がする。またAIやバイオテクノロジーの驚異的な発展が現在ある職業が20年後にも残っているのか判らないという時代に、未来のことについて誰もが怯えて考えなければいけないはずなのに、徐々に起こる変化の中で気づくことがなかったり、数年先のことなんて起きてから考えればいいとでも思っているのか、そもそも思ってさえいないのか。そんなぼんやりとした我々にも、今月の売上げがまるまる無くなったり、決まっていたはずの就職内定が突然取り消されたりすることで、考えるということを突然突きつけられる。ステイホーム。なにがステイだ。ステイしてて明日いい事があるというのか。

ミュージシャンもそうだ。ライブハウスに立つことができなくなる。全国ツアーもすべて白紙だ。音楽で食っていた人も、近い将来食っていこうと計画が立っていた人も、音楽で食える目処なんてまったく無い人も、ステージもスタジオも取り上げられてしまって大変だ。振替公演として発表した日程も再び中止になり、なんとか実施した時に、感染させたらどうしようという不安が払拭されることは無い。

メメタァの配信新曲『wall around』が、そんなステイホームな中で聴くととても感慨深い。多くの人たちがオンライン飲み会に使ってたZOOM(画面にはZOOMEの文字!)を使ってメンバー4人が映るMVを作成。ライブができなくなってからも、無観客ライブなど工夫をしながら活動の場をちょっとずつ拡大させてきた音楽業界。今はまだ観客の方もオンラインのライブ体験というものに慣れないでいるけれど、サザンオールスターズのオンラインライブでは18万枚ものチケットが売れ、この新型コロナ禍を逆にチャンスとして乗り越えて行こうというたくましい考えを表明している音楽業界人もいる。もうダメだと下を向いて歩みを止める者も多い中、本当に人それぞれなんだなあと思わされる。

この曲が歌っているのは、壁に囲まれた世界のこと。それは単純にステイホームで足止めされている様子を思い浮かべるが、歌詞の中ではそれを必ずしも100%の逆境と言っているのではない。「強い風が吹くこともなく」と歌っていて、なるほど、誰かが決めた壁の中に「いなさい」と言われてただ従っているのは易いことなのだと気づかされる。確かに新型コロナによって僕らはこれまでの生活を失った。誰もが失ったのだから、そこで「辛いよね」と言ってさえいれば、誰から怒られることもなく、そのままで不幸に浸ることができる。そこから一歩外に出て、「お前何やるんだ」と言われそうなことに進み始めるのは、実はとても大変なことだ。そんなあたたかくて優しい壁に囲まれたままでも別にいいんだけれど、いつまでそうしているつもりなんだとこの曲は迫ってくる。そのことを、追い立てるような厳しい語り口ではなく、別にいいけどさという余地を残しつつ、迫ってくる。このあたりがメメタァの優しいところなんだろう。その優しさに甘えてやっぱり壁の中でもうしばらくいるということでもいいんだろうが、そんなことをしているうちに、彼らはもうその先の遠くに行ってしまっちゃうんじゃないだろうか。

(2020.7.28) (レビュアー:大島栄二)


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review, メメタァ, 大島栄二

Posted by musipl