杏沙子『見る目ないなぁ』【まずいお酒よりも懐深く包んでくれる。魔法の言葉】
ちょっと辛い出来事があって寂しい歌ばかり聴いていました。でも。ショッキングな言葉は抱えたくないし、絶望を突きつけられるのは嫌。それでいて、のしかかってくるつらい気持ちのノルマを消費できる程度に、自分を責めたい。そんな時に『見る目ないなぁ』を聴きました。自己を省みる、見る目ないなぁという言葉自体の響きがもつ諦め、慰め、情けない週末がこの歌の味覚。まみむめも、なにぬねの、は発音すると口元に甘い共感覚が発生する。ねぇねぇママあのね、なになにそうなのね。昔そこにあった、母との会話のような感触が「がんばったけれどダメだったよ」を、まずいお酒よりも懐深く包んでくれる。魔法の言葉が「見る目ないなぁ」だった。
(2020.7.24) (レビュアー:北沢東京)