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野崎りこん『空を分かつ feat. tedeo』【違和感とヘビーさに打ちひしがれそうになる心も一旦リセットされ】

美しい曲。淡々とメロディを歌う女性ボーカルとラップを展開する男性ボーカルが交互に重なっていく。メロディの強さなのか、それとも女性ボーカルの強さなのか、はたまた曲全体に占めるそれぞれのパートの担当時間の差なのか、この曲を女性ボーカルの歌だと感じる。感じてしまう。

この曲のアーチストは野崎りこんで、tedeoはあくまでフィーチャリングアーチスト。ただ、野崎りこんって男性なのか女性なのか。tedeoは男性なのか女性なのか。どちらが男性であっても女性であってもいいんだけれど、この曲のアーチストである野崎りこんが歌を歌っているのかラップを展開しているのかは知っておかなければと思う。で、ググってみる。男性の方だ。ラップの方が野崎りこんだ。この曲を女性ボーカルの歌だと感じたのに、メインアーチストはラップの方だ。

興味深い。それでアルバムを聴く。重い。かなりヘビーだ。野崎りこんのヒップホップ。多くのヒップホップアーチストが外に向かってヘビーな現実をシャウトするのに対し、野崎りこんのヒップホップは内側に向かっている。内省とでもいえばいいのか。内側に、というより自分の記憶の奥底に澱んだ泥のような記憶を掘り起こすような作業。それをどうしろなどと他者に迫ることもなく、淡々と過去を見つめている。それを聴いた他者の僕は、同じような何かが自分にもあったかもしれないと感じ始める。本当にあったのかどうかはともかく、あったんじゃないかと感じ始める。そう感じさせるのは野崎りこんの力なのだろう。

ただ、重い。重すぎる。このMVではtedeoのボーカルがその重さを中和させるような役割を担っている。それを意図してフィーチャリングしたのかどうかはともかく、彼女が曲の大半を歌うことで、この曲は、トラックは、中和されている。浄化されている。同じような女性ボーカルが入った曲がアルバムにはもう1曲収録されていて、この2曲があることで、全13曲が適度なバランスで心に沁みてくる。このMVの曲だけを聴いてアルバムに行き着いた場合、最初確実に違和感を覚えるだろう。だが、6曲目と10曲目に女性ボーカルが登場することで、その違和感とヘビーさに打ちひしがれそうになる心も一旦リセットされる。そのことで、野崎りこんの世界をちゃんと聴く体制を整えることができる。

(2020.7.14) (レビュアー:大島栄二)


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review, 大島栄二

Posted by musipl