THEイナズマ戦隊『WABISABIの唄』【オールドスタイルなロックをこよなく愛するよ、オレ】
安定してるなイナズマ戦隊。音楽にはいろいろなジャンルがあって、彼らがデビューした頃くらいまでは特定ジャンルのムーブメント10年周期説みたいな話もあったが、その後はあらゆるジャンルが同時期にそれぞれそこそこに盛上がるという、ムーブメント無き盛上がり状態で個々のジャンルがファンを獲得して存在できるようになった。これまでにない音楽をと意気込んで、スタンダードな音楽などクソクラエ的な音楽活動をするバンドも多くいたし今もいるが、THEイナズマ戦隊は一貫してそんな新機軸的なチャレンジからは距離を置き、歌を表現することに徹してきたように思う。もしかするとそれが物足りないと感じるリスナーもいるだろう。そんなのは当たり前だ。しかし新しい音楽を追求するあまりにどんどんとマニアックになっていくばかりのベテランバンドがいる中、彼らのように終始変わらないスタイルを貫いて聴かせ続けてくれるバンドは、ある程度年齢を重ねた者にとってはとてもホッとする音楽として残っているような気がするのだ。
その彼らが360度ビデオで作成したMV。これは「Another take」となっていて、これとは別の同曲MVもある。別というか、こちらの方が別バージョンなのだが、本家が360度カメラを使った映像で構成された「この部分ではこのアングルを見てね」と視点が固定された映像。しかしこのMVは360度ビデオの特性をいかした仕様になっていて、パソコンで観る時は左上の矢印ボタンアイコンを使ってグルグルと回せるし、スマホならスマホ自身を動かすことでアングルを変えることができる。つまり終始ボーカル上中を見続けることもできれば、終始ドラマー久保だけを見続けることもできる。昨日レビューしたArakezuriのMVも360度カメラを使っていて、それは360度カメラならではの映像に仕上げて編集された、アングルを変えることはできない仕様だが、それはそれで面白いし、こうして360度カメラによるインタラクティブ性を存分に活かしたMVも面白い。ただ、旧いパソコンと旧いブラウザを使うとその360度グルグルと動かすことは出来ず、展開図のような固定の不思議な映像を見ることになる。それはそれで「なるほど、こういう映像を撮って、機会上で360度に展開しているんだな」ということがわかって興味深いけれど、旧いパソコンしか持っていない人にとっては置いてけぼりをくらったような気にもなる。そういう人に気遣ってか、この曲のMVはアングルを固定したバージョンと360度グルグル動かせるバージョンが公開されているのかもしれない。そして、オールドスタイルなロックをこよなく愛するTHEイナズマ戦隊のファンの中には、パソコンも旧いままの人も多いのではないだろうか、だからそういう配慮も大切なのではないだろうか、などとへんな勘ぐりをしてしまったりして、それはそれで興味深いことだなと思ったりもした。
(2020.7.4) (レビュアー:大島栄二)