ユカリサ『いらない』
【こういう歌を聴くことによって、人はそこはかとなく強くなっていけるんじゃないだろうか】
あなたが心にいてくれたから 私はこんなに強くいられるの
あなたが心にいてくれるから 私はこんなに弱くもなれるの
不思議な歌詞だ。そしてグッとくる。人は人と関わることで強くも弱くもなれるのか。それを自分のことに置き換えて考えてみると、確かにそうだなと思う。この場合の「あなたがいる」というのは、ただ単に物理的にそばにいるということではないし、卒業したら思い出すこともないような普通の友人関係とも違う、優しくそっと心に楔を打つような、そんな関係性なのだろう。だから、「心にいてくれたから」と過去形になっても、自分を強くさせる影響力をもつし、その場合自分も相手を強くさせているんだろうなという想像を働かせることも可能になる。
昨今の日本の現状を考えると、分断が進み、結婚することを望んでも叶わない人がたくさんいて、別に結婚という制度が万能というつもりはないけれど、心を許しあえる関係を持つことができれば、人はもう少し強くなれるんじゃないかなあと思ったりすることがある。
ユカリサというバンドは吉野友加(tico moon)、中川理沙(ザ・なつやすみバンド)、山崎ゆかり(空気公団)を主メンバーとして結成された、ユカ2人とリサ1人だからユカリサなのだろう。2人が元々所属しているバンド名を見ると、メジャーなのかマイナーなのかは難しいところだが知られた存在ということはできるだろう。この3人が3人ともボーカルをとっていて、聴いてみればわかるとおり、それぞれの声質がまったくといっていいほど違っている。個性的な声が3つ集まっている。このそれぞれ違った声質が寄り添うことで豊かな音が作り出されている。とてもいい。落ち着ける歌だ。彼女たちがそれぞれのバンド活動を持ちつつ、今こうして新しい集まりとして活動している。冒頭の歌詞にあるような、これまでとこれから。そうした個々のつながりの変遷の果てに今こうして豊かな声の集まりがあるというのは興味深い。MVでは3人のボーカリストの姿が順番に交互に映し出される。ステージで歌うような姿ではない、生活の日常が映される。しかしけっして同時に映ることはなく、ひとりひとりがそれぞれに個人の人生を歩んでいるように見える。「明日は誰のものでもない/誰のために生きるわけでもない」というサビのフレーズが、全体としては「あなた」との関係性の上に歌われているのだが、そのコンセプトを示しているような映像だと思う。人にとって誰かとの関係が重要でありつつも、それは誰かに寄りかかって依存していくということではなく、究極には自分のためにあるのだという強いメッセージ。こういう人たちのこういう歌を聴くことによって、人はそこはかとなく強くなっていけるんじゃないだろうか。
(2020.7.2) (レビュアー:大島栄二)