ES-TRUS『君がいて』
【サウンド的な個性を保ちつつこのボーカルを前面にきっちりと押し出していった先に】
ハードロックだ。彼らのHPにはエモーショナルロックバンドとあるけれど、確かにエモーショナルを掻き立てる力はあるけれど、エモと呼ばれる一連のジャンルとはあきらかに一線を画している。そんなジャンル論なんてどうでもいいじゃんという意見もあるだろうし、僕自身どちらかというとジャンルなんてどうでもいい派だが、このドラムを聴けば反射的にハードロックだと感じてしまう。この曲はどちらかというとおとなしめのドラムだけれど、彼らの他の曲を聴いてみるとその手数の多さにまず気づく。ハードロックだ。そして心地いい。紅一点ボーカルのkyokaさんの声は通常張りのあるよく通る声なのだが、この曲では全般的にファルセット気味の部分が多く、意図的にキーを上げているのかなあという気がする。この曲が持つ儚さのような感情を打ち出すには効果的なのかもしれない。その分他の楽器音が強ければ歌が沈むし、そういうこともあって演奏自体が他の曲よりも控えめな仕上がりにされているように思われる。ロックバンドとしては、特にハードさを売りにしているバンドとしては余計に、歌を出すために演奏の音量を下げると「オレたちは歌モノのバックバンドかよ」的な気分になってしまいがちなのだが、そういう気分をよく抑えて、サウンドも抑えて、全体としてのバランスを見極めたなあと感じられる。だからといってこのドラムのように根本の何かは失うことなく、ちゃんと自分たちを出しつつ。こういうのを一皮も二皮もむけたというべきなんだろう。サウンド的な個性を保ちつつこのボーカルを前面にきっちりと押し出していった先に、これまでとは違った層のリスナーに届くようになる次の未来が開けていくのだろう。
(2020.6.16) (レビュアー:大島栄二)