輝きはゼイタク『あなたの側に』【輝けない今の自分で普通なんだよと訴えてくる力強い歌】
カメラ目線でこちらをじっと見て歌うボーカル龍生の言葉がなぜだか説得力を持って迫る。歌詞を拾って読んでみると、「もう明日のことすら考えられないような毎日でいいんだ」とある。いやいや、そんな毎日でいいはずはないだろう、と思う。冷静になればそう思う。別に明日のことばかり考えなくてもいいけれど、明日のことを考える余裕くらいはある毎日であって欲しい。普通に考えればそうだろう。なのに、この歌は説得力を持ってグイグイ迫ってくる。何でなんだろうか。
この歌で歌われているのは、明日のことすら考えられないような、追い込まれた日常。そこから脱して余裕のある人生を獲得しようという考え方はそれでいい。しかしその前向きな考え方を持てないほど追い込まれている人はいるし、そんな状況はそこらじゅうにある。追い込まれた人は余裕を持てる状態にならないとダメなのか。ダメだという人はどういう場所にいるんだ。ちょっと余裕を持てているんだろう。そういう人に余裕無く生きている人の気持ちなどわからない。だから余裕さえ持てずにいる人にプラスアルファの前進を求める。求めるというよりやんわりと強いる。余裕を持てという呪縛によってさらに余裕を失わせる。そういう状況にいる人に「今のままでいいんだよ」と囁きかける。バンド名からしてそうだ。輝きはゼイタク。輝けない今の自分で普通なんだよと名前で訴えてくる。
こんなことを長々と文章で書いたところでまだるっこくって、文章をじっくり読む余裕がない人には伝わるはずもない。無力さを感じる。だがこうして歌にして流れてくればそれに身を任せるだけでいい。音楽ってすごいな。あなたの平凡は歪んだギターがかき消すんだとまで言い切る。その歌詞の後に歪んだギターが間奏のソロで鳴り響く。鳴り響くことで、言葉が届かない人の余裕無い平凡をかき消そうとしてくれる。いいな。もちろんプラスアルファの何かを獲得して余裕のある日々に移行できればいいんだろうけれど、移行できずにいる人にとっては、ただただ意味のない単純なギターサウンドが福音となる。それはまるで言葉の意味などわかりやしないお経が福音となる宗教の様でもあるのかもしれない。言葉と音とパフォーマンスのバランスが取れてなければ、音楽もただの騒音でしかなくて、それではなんの福音にもなり得ないのだろうけれど、このまだ無名なバンドの曲は冒頭の歌い出しから既に、言葉のフレーズだけではひっかかる意味を、サウンドと歌でスーッと心に到達させている。とても絶妙で、力のある歌だ。
(2020.6.8) (レビュアー:大島栄二)