harue『失踪』【力のある女性ボーカルに頼ること無くひとつひとつの楽器に手抜きがまったくなくてステキだ】
この疾走感はいったいなんだろうか。曲名は失踪なのに楽曲からは疾走感。いや、ダジャレを言っている場合じゃないんだけれど、そんなつもりはないんだけれど、曲の頭から最後まで必要以上に駆けている感じに満ちあふれている。ポップミュージックのAメロBメロサビというパターンが、この曲の場合サビから入っていく形にはなっているものの基本パターンをきちんと踏襲していて、そういう基本パターンの場合やはりどうしても盛上がりのピークはサビのところにあって、多くの場合はABとサビとのテンションのギャップが大きくて、これ本当に同じ曲なのかと思うこともしばしば。しかしこの曲の場合サビだろうがABだろうがお構いなしにリスナーのテンションをぐいぐい引っ張っていく。何度も聴いてその理由を確かめようとするうちに、あれ、この曲が音符的にメロディ的に特別な作りになっている訳じゃないぞという結論に至る。これ、他のバンドや他のボーカリストが普通に演奏したらこんなに疾走感に満ちた曲にはならないのだろう。ボーカルの円Do(えんでゅ/えんどぅ?と読むのか?)の歌声が切り裂くような印象で、だからといってハイトーンボイスということでもなくて、どうしてそうなんだろうというのはよくわからないんだけれども、ひとつ言えるのは、全力で歌っている、全力で声を出している、というのがめっちゃ伝わってくるということ。それがこの歌が鳴っている場の緊張感を高めているのだろう。どうしてもこの歌声に耳がむいてしまうけれども、一緒に鳴っているすべての楽器もめっちゃテンション高くて、よくいる女性ボーカルバンドとはちょっとちゃうなと思える。よくいる女性ボーカルバンドとは、女性ボーカルの魅力にまかせて演奏陣は自分を出すことに手を抜いているというもので、メンバーがちょっと変わってもその女性ボーカルバンドさえいればOKみたいなことになってしまう。しかしこのバンド、ひとつひとつの楽器に手抜きがまったくなくて、ギターがこれでもかと隙間を埋めるようにいろいろなフレーズやカッティングを入れこんでくるし、そのせいで隙間なんて無いはずのところにドラムが勢いよくタムを乱打してくる。よくよく聴けばそんなに速いビート構成じゃないはずのこの曲がめっちゃ速い曲になって響いてくる。バンドとしてよくまとまっている。まとまっているというには全方位的に過激に音を鳴らしているのだけれど、それがバラバラになること無く、ひとつのバンドとしてよく融合しているなあという印象。今後の活躍がとても楽しみなバンドだと思う。
(2020.5.19) (レビュアー:大島栄二)