宮本浩次『ハレルヤ』【新しい道に挑戦しようとするすべての50代を祝福するハレルヤ】
宮本浩次、53歳。一昨年の椎名林檎とのデュエット以来ソロ活動ばかりが目立つ。バンドとしてのライブは昨年も行なっているものの、楽曲のリリースはソロばかり。で、今月のアルバムリリースだ。もうバンドではやらないのか。どうなのか。と、思ってた。この曲を聴くまでは。
50歳も過ぎれば天命を知るらしい。不惑は40歳だ。いったい平均寿命何歳の頃の話だよと思うけれど、世の中の常識では50では天命を知らなきゃならないらしく、ここから新しいチャレンジとか無謀過ぎるだろというのがやはり常識のようだ、平均寿命80歳の時代でも。しかし世の中を見渡せば50歳でリストラとかよくある話で、本意じゃないのに新しいことにチャレンジしなきゃならなくなってる人もけっして少なくない。そういう時にどうすればいいのか。50も過ぎてるのに新しいこととか無理だよ本当に無理、なんて思って取り組んで成果なんて出るはずはない。新しいことに取り組んでる時点で敗北者だとか、取りよりの冷や水とか言われることもしばしば。
でも、いいじゃないか。そういう状況に追い込まれた場合だって、自ら人生を方向転換する場合だって、堂々と誇り高く取り組めばいい。転職、引越し、結婚、なんでもいいよ、自分の環境を変えるすべての人はその後の展開には明るい希望しかないという気持ちでズンズン突き進む権利があるし、そうすべき。
宮本浩次のこの曲はそんな前向き感に満ちあふれている。メッセージソングというものが世の中にはあって、そういう曲に人はちょっとだけの勇気をもらうことがある。だが50代で勇気をもらいたい人が、20代のミュージシャンが歌うメッセージソングにどのくらいのリアリティを感じられるのか。薄いリアリティにどれだけの勇気を抱けるというのか。そういう観点で見るとやはり53歳の宮本が歌う底抜けの明るい曲にはリアリティを感じられる。もしも今月50代になったミスチル桜井がこの曲を歌っていたらどうだろうか。個人的な見解だが、いや君はもう大成功を収めて何の不自由もなく音楽活動続けられる成功者じゃないかい、とついつい思うし、リアリティを感じられるとは思えない。数年前には難聴にもなり、いろいろと抱えているだろうと想像しうる宮本の歌だからこそ、そしてその彼がソロとしての初アルバムリリースだからこそ、この前向き一直線のメッセージがリアリティを持って響いてくる。困難を抱えつつも新しい道に挑戦しようとするすべての50代を祝福するハレルヤに幸あれ。
(2020.3.28) (レビュアー:大島栄二)