sea’s line『Good Night』【すべての休息が必要な人に贈りたい、心を包んでくれる歌】
間違いだらけだけど、それも悪くない、悪くない悪くないね。こんなフレーズが繰り返される。優しいメロディだが、この繰り返されるフレーズが与える優しさの方が数百倍のインパクトで聴く者を包む。けっして強い調子で歌うわけでもなく、力を込めてパワフルに演奏するわけでもなく、ただ淡々と淡々と曲を奏でている。だからこそ醸し出すのだろう、彼らの曲には包み込む力、限りない優しさがある。自己責任の言葉が飛び交うこの社会で、誰もが、誰かに「悪くないよ」と言ってもらいたい。なぜ悪くないのか。それを理屈で考え始めるときっと窮する。完全無欠な人などいないのだから。人は良いところも悪いところも持っている。そして良いところはなかなか意識しないのに、悪いところは常に意識のどこかにある。それが自らの向上心につながる人もいる。向上心につなげられれば人はどんどん成長していくだろうけれども、そういう人は自分の欠点を本当には意識していないのだと思う。欠点を欠点として意識し、隠したいほどに抱えてしまっている人は、それをバネに向上していくなんてベクトルにはならないものだ。ではそういう人はずっと悩んで生きていくべきなのか。そんなことはない。誰かに「悪くないよ」と理屈抜きに言ってもらうことで、少しばかり現実から逃れられるし、逃れられれば眠ることだってできる。眠ることができれば心身ともに回復して、次の日を少しだけポジティブに始めることだって出来るに違いない。グッドナイトというのは、けっして「眠れ」という紋切りの言葉ではなく、少しばかり現実から逃れてゆっくりとできるような夜をという祈りの言葉だったのではないだろうか。
残念なことに、この「悪くないよ」を理屈抜きに言ってくれる人は少ない。なんでも自己責任の世の中で「悪くないよ」の重要性をともすれば忘れてしまう。そんな中、僕はこの曲に偶然出会った。その偶然に理由も理屈もないのだが、それでも何かの必然はあるような気がする。
すべての、休息が必要な人に贈りたい、心を包んでくれる歌だ。
(2020.3.16) (レビュアー:大島栄二)