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noto『キャンドル(feat.羽方美紅)』【誰しもが自由に書き込んで紡いでいく音物語と、その活動基盤】

ボーカル不在のバンドだそうだ。じゃあインストバンドなのかというとそうじゃなくて、曲ごとにボーカルを呼んできて歌ってもらうとか。いやあ面倒だなあ。ライブやる時とかどうするんだろうか。1曲1曲ボーカルが交代して歌うんだろうか。それともその日のボーカルが全部歌うんだろうか。そんな余計なお世話など知ったことじゃなく(当たり前だけど)、“誰しもが自由に書き込んで紡いでいく音物語”を テーマに、毎回作品に沿ったボーカルとクリエイターを起用して、音楽で物語を紡いでいく、という活動をしているらしい。

新しいな。それ新しいな。別にライブしなきゃとか、統一したボーカルで攻めなくちゃとか、当たり前の価値観でやるだけが音楽じゃないし、毎回毎回苦労して客を集めてライブやるよりも曲として完成したものをYouTubeに挙げといてそれを見てもらう方が効率的ともいえるし、それだけの活動で成立するわけだから、そういう表現者がいてもまったくいい。この羽方美紅というシンガーは特別有名な人ということでもなく、それでもこうやって歌えば堂々としててサマになる。少しばかりクセのある息の吐き出し方が低音域で太い声として地を這うようにしてリスナーに響いてくる。こういう歌声を知ることができたというだけでも、この組み合わせが持つ意味は大きいといえるだろう。実際に歌いたいと思っている人はとても多くて、昨今大人数のアイドルグループがたくさん成立している背景にはシンガー志望の若い女の子がたくさんいるという現実がある。音楽専門学校には若い子向けのボーカルコースがあるし、じゃあそこを出たからといって歌う仕事に就けるかというとそんな簡単な話でもなく、この10年くらいはアイドルグループビジネスがそういう歌いたい女の子の向かう先として需要供給を満たす受け入れ口として成立している。しかし歌いたい人がみんなアイドルになりたいわけもなくて、ソロシンガーになったり、バンドに加入したり。それでもきっと多くのシンガー志望者はあぶれているに違いない。そういうことを考えると、こういう「作品に沿ったボーカルとクリエイターを起用する」バンドがいることは、シンガー志望者の受け入れ先として意味があるようにも思う。もちろん、彼らの作る音物語や音そのものがつまらないものでしかなければ、シンガーもリスナーも見向きもしなくなるわけで、彼ら自身の努力と才能も重要なカギになっていくだろう。

(2020.3.5) (レビュアー:大島栄二)


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review, 大島栄二

Posted by musipl