立花綾香『あいいろ』【表現として抑えられた、ものすごく個性的で心地良い声】
こういう声好き。本来は高音域に伸びる声質で、でも低いキーに広範囲に対応できる。だから無理に低音を歌っているという印象がなくて、印象がないというよりも気づかずに聴けるから、自然にスーッと聴き入ることができる。アイドルの人やアニメの可愛いキャラの声にありがちな嬌声とは違って、とても落ち着いた感じの声。聴いていて、サラマクラクランを思い出す。ただ、サラマクラクランは全体的に落ち着いたトーンでありつつも高音域でパワフルなシャウトを響かせる。それがグッとくるポイントでもある。だから、ということではないけれど、この立花さんもこの目立たないけれども特徴的な声を活かすためにもシャウトする部分できっちりとシャウトするパワフルさを見せてくれればなあとちょっと物足りなく感じるのだ。この曲自体がそういうパワフルさをだすような構成になっていないのかもしれないし、だとすればそういう曲を選んで、まだ秘めているかもしれないそういうパフォーマンスをドンと打ち出していけばもっともっと魅力的になるような気がするのだが、どうだろうか。そういう気持ちでこのMVを見ていると、本人の顔を隠すつもりはなさそうなのに、逆光で暗かったり、ピアノを弾いているシーンでも照明が顔に当たってなかったりで、終始表情が見えにくくなっている。それはたとえばサウンドの作りでもそうで、ピアノを弾いているシーンを作っているのに、ピアノの音はサウンドとしてけっして前面に出てこない。本当にこの人はピアノ弾いているんだろうかとさえ思ってしまう。なにか、全体的にもどかしい。もっと様々なポイントを前面に出せばいいのにと思うのだが、どうなんだろうか。そのもどかしさで、リスナーを惹き付けようという戦略なのだろうか。それとも他の曲ではあらゆるポイントを出し尽くしているからこの曲では抑えめにということなのだろうか。声がものすごく個性的で心地良いので、それをもっと聴きたいのにという僕自身のもっともっと的な気持ちがそう思わせているだけなのだろうか。
(2020.2.24) (レビュアー:大島栄二)