61room『Cheap Romance』【ボーカル2人によるコントラストが明確で心地良い曲】
切ないフレーズが積み重なって進行していくナンバー。全編英語のようにも聴こえるがかなりの部分は日本語。日本語をさも英語であるかのように歌う第一人者といえば桑田佳祐ということでいいんだろうか。佐野元春だってけっこう英語っぽく日本語を歌える人で、歌詞に韻を踏むケースが多用されている点でこの曲は佐野元春っぽいともいえるが、じゃあ楽曲が佐野元春的かというとそんなことはまったく無い。シティポップナンバーというのが適切なのかなあと思わないこともないけれど、なんとなくそれも違うような気がして。いろいろと考えながら、歌詞を眺めつつこの曲を繰り返して聴いていると、なんとなく不思議な気分になっていく。2人のボーカリストが交互に歌ってこの曲が成立しているのだけれど、2人の声質なのか歌い方なのか歌唱力なのか、とにかく違っていて両者のコントラストがとても心地良い。彼らの他の曲も聴いてみたいと当たり前のように思って、過去MVを探してみる。半年ほど前の楽曲『雨』を聴く。それに比べると今作の方がかなり洗練されている気がする。どの辺がかというと、2人のボーカルの交代の妙だ。そんなに頻繁に交代するわけじゃない。しかしボーカルが変わった途端に変わったことが明確に伝わる。明確に伝わることでリスナーの気分がそこでリセットされる。彼らについてはTwitterとインスタのアカウントがあるだけで、ホームページも無いのでメンバーの個々の名前もよくわからず。なので「この曲で最初に歌う方」という言い方しか出来ないが、彼の声の方がより個性的で耳に残る。今作では彼の声がより前面に押し出されているようで、聴いていて心地良い。もちろん彼の声だけで良いというのではなく、もう1人のボーカルによってメリハリというかコントラストというか、そういうのが良いんだけれども。また、全面的に裏声というかファルセットというか、そういう声の出し方で歌っているのである程度は仕方ないのかもしれないけれど、個人的には腹の底から響く圧倒的歌唱力でこの曲を聴いてみたいなあとは思う。そこのところが加わることでスーパーボーカリストユニットになって行くんじゃないかなあという気がする。もちろんそういう変化によって現時点で持っている良さがすべて消え去ってしまうおそれだってあるのだけれども。いずれにしても再生回数2000回以下というのがとてももったいない逸材だ。半年前のMVもやはり2000再生以下なので、なんとかしてもっと多くの人たちにリーチするように彼ら自身が頑張ればいいのに。
(2020.1.7) (レビュアー:大島栄二)