大野雄介『Raise your flag』【サラリと聴き流されそうだけど、聴いておくべき歌】
そこはかとなく迫ってくる。サラリと聴けば、いやどこかでBGMとして流れてきたら、他の手を止めて聴き入るとかはしないと思う。それどころか流れていることにさえ気付かずに5分が過ぎていくだろう。そしてけっして多くない人だけが、あれ、今なにか聴いたよな、聴いたはずなんだけれどなんだったんだろうと、意識としてひっかかる。だが気付いた時にはもう遅くて、それが何だったのかを知ることはほとんど無い。
人の暮らしも似たようなもので、いくつものことが同時並行的に行なわれてて、だから、同じ場所で生まれて同じ学校に通っていたはずの人が違う場所でまったく違った生き方をしている。今起こってることの自分がなにに気がついてこだわったかが、人生を決めていく。自分と違う生き方をしているあいつは自分が気付かなかった何かに気付いたのだろうし、同時にあいつが気付かなかった何かに自分は気付いたのだろう。そうして今の自分があって、気付かなかった何かによって作られたあいつの暮らしを羨ましく思ったりする。だけれども気付かなかったんだから仕方ないんだよ。それに、あいつだって他の暮らしを羨ましく思ったりしているんだ。自分だけが気付いた何かによって導かれた今の暮らしに、誇りを持って生きていけば良いだけなんであって、他を羨むことにプラスの意味なんて多分無い。
代わり映えのしない毎日の中にある自分の暮らしを尊く思い、自分の旗を掲げようという歌が、淡々としていてサラリと聴き流されそうなテイストだというのがもどかしくも興味深い。そういう曲やパフォーマンスに少しだけスポットライトをあてて気付いてもらう一助にすることも、musiplの役割かもしれないと思って6年が経つ。そのmusiplさえ、サラリと聴き流されて気付かれずにいるのではないかという想いもちょっとだけありつつも、今日も1曲、また1曲とレビューを続けている。
(2019.11.11) (レビュアー:大島栄二)