坂口喜咲『犬と苺』【めっちゃ好きなギターサウンドと、それにふさわしい個性的なボーカル】
コケティッシュな声の女性ボーカル。だがその前にこのギターの音の心地良さは一体何なんだ。そりゃあ好きな音の好みって人それぞれだから同意してくれない人が結構いるだろうってことは承知だけれど、このギター、かなり好き。坂口喜咲さんの向こうでピンクのフェンダーを弾いている縦縞シャツのマッシュルームカットのギタリスト、ただ者じゃないなオイ。軽やかな音色で、前に出過ぎて坂口喜咲を食うようなこともせず、それでいてしっかりとした個性あるギターを鳴らしてる。どんなにテクニックがあったって、それがボーカルを食ってしまったら意味がない。特にソロ名義のシンガーのバッキングという立ち位置でそれをやったらクズプレイヤーだ。かといって当たり障りのない誰にだって弾ける平凡なサウンドしか鳴らさないんだったらやっぱり意味がない。とはいえ、ソロシンガーがバンド編成でライブをやる以上ヘルプのミュージシャンは必要なわけで、選り好みしていたら永遠にバンド編成ライブなんてできないのだから、ライブやる日は優先的にスケジュールを空けてくれて、なんならツアーに出ていく時には数日仕事を休んでくれて、おまけに深夜の車移動の運転だってやってくれるとかいったら、もう演奏能力云々と言っている場合ではない。それに第一優秀なプレイヤーは既に自分のバンドやってたりするんだから。かくしてたいしたことの無いサウンドとともにバンド編成ライブをやってるソロシンガーは結構多い。そんな中、こんなに素敵なギターを鳴らせる人を従えてやってるというのは、きっと坂口喜咲さんの人徳の賜物なのでしょう。ギターだけじゃなくて、ベースもドラムも上手いし。まあ楽器について多少考える人だからそういうところに意識が行ってしまうけれども、普通のリスナーは誰が演奏してるとかについてほとんど意識しないわけで、鳴っている楽器の音を含めて坂口喜咲の曲として受け取るだろうから、やはりこういうバンドマンを従えている坂口喜咲というシンガーは大きなアドバンテージを得てるなあと思う。彼女の曲自体も重すぎず比較的軽いテイストで進行してて、ポップでとてもステキ。昨年リリースのアルバムを聴いているとただコケティッシュな声というだけじゃなく、伸びやかなパートではかなり太く響く力強さもあって、例えていうならaikoのようなポップミュージックにずっと聴いてて飽きません。
(2019.10.29) (レビュアー:大島栄二)