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shellfish『花火』
【花火というのは何かを思い出す最強アイテムなのだろうか】

なんだろう、花火というのは何かを思い出す最強アイテムなのだろうか。火曜日にレビューしたフジファの『若者のすべて』もそうだった。花火での出来事にまつわる、淡い想い出。暗闇で明滅する光。たしかにそれは記憶に焼き付くに十分な光景なのかもしれない。

この曲が面白いなと思ったのは、まさにその記憶についての描写で。普通は綺麗な想い出を思い出したくて人は思い出すし、思い出すことで何かしらの満足を得る。だがこの曲では「忘れたい事ばかりを思い出す」と歌う。そうだなあ、人は単純に思い出したいことだけを思い出すんじゃないよ。思い出したいことはなかなか思い出せなくて、あれ〜、なんだっけあれ、あの人、ヒゲの人は誰だったっけとかいくら悩んでみたところで思い出せない。くだらない、つまらないことばかり思い出す。何で今それなんだよと思ったところで思い出してしまったものは仕方なくて、しばらく脳裏から離れていってくれることはない。

そういうふと思い出してしまうことが実は意外と大切なことで、脳ってものはこちらの気持ちなんて無視しちゃって大切なことをフッと記憶の片隅から引き出してくれるんじゃないかと感じることはよくある。まあこの曲の場合は忘れたいなんていってるけれども未練たらたらで別れた元彼女を実際は思い出したいわけで、本人がいくら理性で「忘れたい記憶」とかいいつつもそういう大切な記憶を脳が勝手に引っ張り出して提示してくれているのだろう。そうしないと精神の均衡が崩れちゃうだろうと。本当に忘れるべきことは、ゆっくりゆっくりと時間をかけて忘れていけばいいし、それまでの間は、明滅する光ような感じで時々思い出し続ければいいんだろう。そういう儚い呼び起こしには、花火というのはまさにピッタリの記憶なのかもしれない。

(2019.10.25) (レビュアー:大島栄二)


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review, 大島栄二

Posted by musipl